「あたし、引っ越すの」


夜空を見上げながら、できるだけ明るい声でそう言った。隣にいる銀ちゃんは、ふうん、と一言呟いて、ごろりと芝生に寝そべった。ああ、あたしは銀ちゃんにとってこの程度の存在なんだ。目尻にたまったをこぼさないようにまた上を見上げた。


「帰ろう」


気がついたら銀ちゃんが隣に立っていて、あたしの腕を引いて歩き出した。


「いつ、行くんだ?」


銀ちゃんはあたしの腕を離し、前を向いたまま口を開いた。あたしはスタスタと前を歩く銀ちゃんを小走りに追いかける。


「……明日、だけど」


銀ちゃんはまた、ふうん、と返事をすると、あたしの指に自分の指をからませて手をつないだ。ああ、あったかい。また、があふれそうになって、こぼれないように奥歯をかみしめる。


「なあ、なまえ」
「うん?」
してるよ」


ああ、もうだめ。プツリと線が切れたように、があふれだす。拭いても拭いてもは止まらない。そんなあたしを銀ちゃんがふわりと抱きしめたら、あたしのあげた香水のあまったるいにおいが鼻をくすぐった。


「好きだよ」
「うん」
「大好きだよ、銀ちゃん…」
「うん、俺もだよ」


目のはしに、きらりと流れが光って消えた。



あまい


100926



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