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部活、遅れちゃうよ、高瀬。おおきい背中をぽんぽんたたくと、かたい指先がわたしのポロシャツを握る力はよけいに強くなり、呼吸がすこししづらくなった。高瀬。肩に押しつけられた頭におずおずと手を伸ばして、そっと髪を梳く。わたしが思っていたよりもずうっと、やわらかい髪だった。ゆうぐれの教室、窓の外が、泣きそうな温度で揺れている。

「……オレ、」

オレ、は。掠れた声は薄く幼く、滲んでひびく。だきしめてあげたいけれど、わたしたちには決定的に酸素がたりなかった。わたしたち、三年生になるんだよ、高瀬。絞りきった声が、ひっくりかえって、随分みっともない。すっぽりとわたしをとじこめる腕の中、すこしきゅうくつに息をする。そうしたら、ぼろり、ほっぺが濡れた。そのしずくはそのまま高瀬のワイシャツに吸い込まれていく。ああ、わたし、どうやら泣いている。

「みょうじ」

わたしが泣いていることに気づいたらしい高瀬の手が、乱暴にわたしの頭をなでた。だから、わたしもわしわしと高瀬の髪をなぜる。想像よりやわらかい髪が、指の間をそっと滑って、肉刺だらけの手が、わたしの髪をほどいて、ぐいとだきよせる。嗚咽をころそうとした肩がふるえた。

「勝つから」

次は、絶対。高瀬の手の温度が、ポロシャツをとおしてじんわりと皮膚にしみた。高瀬の心臓の向こう側でにぎりしめた手と、まるで役に立たない短い腕をせいいっぱい伸ばして、溺れるような思いで抱きしめる。勝つから、なんて。あたりまえでしょう、うちのエースがこんなにやる気なんだもの。



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