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「しずくん」

口にした響きは酷く甘かった。ベッドの中、ふわふわした眠気に足を掬われる気分で、わたしは隣の体温に身を寄せる。そうしたら抱き枕みたいに簡単に抱き寄せられて、耳元に唇を寄せられた。きゅん。くすぐったいけど、かわりにちょっとときめき。

「くすぐったい、しずくん」
「うるせえ」

これ以上は言わせないともいいたげに、ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。あったかいと呟いて胸に額を押しつけると、しずくんはわたしの頭の下にその細い腕をかたっぽ滑り込ませた。いわゆる腕枕である。きゅん。ほそくてかたい体温がじわりとなじんで、とても心地よい、けれど。

「腕、しびれちゃうよ」
「いい」
「しずくん」
「いいから寝ろ」

聞く耳をもたないしずくんに、むうと口に出して言ってみる。そうしたら、くすり、と息のような声が聞こえて、それに少し顔をあげると、しずくんがひどくきれいなかおでわたしを見ていた。ず、きゅん。撃ち抜かれて即死。いくら眠たい頭で見ているとはいえ、しずくんは俳優羽島幽平の実のお兄さんである。そんな彼が、あんまり綺麗な顔で笑うものだから、つまりわたしにとってそれはときめかざるをえない状況だったのだ。溺死して昇天。どうしてこのひとはこんなにきれいにわらうんだろう。何度も見たはずの、わたしのいちばんすきな顔。冷たかった布団が、しずくんとわたしの体温でじわじわと溶けていく。

「……おやすみ、なまえ」

おやすみ、なさい。もごもごと舌の上で転がすように呟いて、わたしは目を閉じてしまうことにした。息を吸うとしずくんの匂いがして、なんだか余計にどきどきする。やだな、今夜は眠れないかもしれない。




月のてっぺんを超え




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