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後頭部に大きな手がそえられてぐっと引き寄せられた、そのままくちびるを奪われて、かすれた声で名前を呼ばれる。きゅっと心臓がなく、この瞬間がしあわせだと、わたしは自信を持って言える。

「…なまえ、なまえ、なまえ」

うん、うん、とわたしは何度も頷いて、静雄さんをだきしめる。わたしの短い腕では静雄さんを包むのには足りない、泣き出しそうな目、さらりと落ちる金髪に触れると、静雄さんはそうっとまぶたを閉じた。わたしの肩に額を押し付けて、長く息をついて、わたしの背中に腕を回す。わたしは結局、泣きたくなるほどしあわせで、しあわせで、指通りのよい髪を、なるたけやさしく、やさしく梳いている。

「すきだ」
「わたしもすきです」
「愛してる、」
「わたし、も」

かざる言葉は無意味な気がして、喉の奥にのみこむ。静雄さんはもういちど愛してると繰り返すと、こんどはわたしが抱きしめられる番だった。くらくらするほどの体温の中で、わたしはその胸に頬をひっつけた。

「ね、静雄さん、なかないでね」
「泣かねーよ」

お前こそ泣くなよ、静雄さんはそう言ってわたしを抱きしめるちからをつよくした。わたしが涙声になっているのに、気がついたんだろう。泣くなよ、そう言ったくせに、静雄さんはわたしの背中をぽんぽんとあやすように撫でる。やめてよ本当に泣いちゃうよ、つぶやいたことばはまるで息みたいになって、そろりと溶けて空気の中へ消えた。

「静雄さん」
「ああ」
「しあわせです」
「俺もだ」

泣くなよ、そう言ったくせに、そう言った静雄さんの声だって、すこしだけ、震えている。それを言ったら、黙れと言われてくちびるを塞がれた。そのあとまたぺたりとくっついて、おたがいの心臓が鼓動しているのがわかる、この瞬間がたまらなくしあわせだと、わたしは自信を持って言える、のだ。











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