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わたしの脳が映像を作って、わたしの脳が再生しているのであろうこの夢は、もしやまさかわたしが生身で感じている現実なのではなかろうか。最近なぜか、そう思うことが多くなってきたように思う。

夢ではないということはつまるところ現実ということであるけれど、しかし現実にしては現実味がなさすぎるような、夢にしては世界の表情がリアルすぎるような、よくわからない中途半端な感覚で、結局わたしはこの夢について考えることを放棄する。めんどくさがりは罪か。

あの日、あの公園で比泉秋名という青年に出会ってから、約三カ月がたっていた。




「なまえちゃーん、起きてー」

季節は庭の朝顔が咲き出すころ、さわやかな朝、桃華ちゃんの声でわたしの一日ははじまる。もぞりと布団から抜け出すわたしはさながら芋虫によく似ているらしい、桃華ちゃんは毎朝それを見て面白いとくすくす笑うのだ。かわいらしい少女の笑顔のためだから、わたしにはとくに恥ずかしいことはない。今日もさながら芋虫、わたしは眠たい頭で明るい光を感じる。桃華ちゃんのおかっぱあたま、さらさらの髪が揺れる。寝癖もなくて、きょうも、かわいい。

「おはよう、なまえちゃん」
「おはようございます…」
「着替えよっか」

桃華ちゃんが伸ばしてくれる手にそっと捕まる、立ち上がる。桃華ちゃんは、わたしを甘やかすのが上手で困る。同い年くらいなのに。そんなふうに思いながら、そのまま、枕元に出しておいた着替え(ヒメちゃんのおさがりである)に手を伸ばすと、開けっ放しになっていた襖を、ちょっと慌てた桃華ちゃんが閉めてくれた。ありがとうを言ってわたしはパジャマを脱ぐ。もう初夏なのにいまだに着ているこの緑色チェックのパジャマは、この世界、この夢においては、わたしの唯一の所持品だった。

「…、なまえちゃん」
「う、ん?」

後ろから遠慮がちに声がかかり、わたしは肩越しに桃華ちゃんを見る。桃華ちゃんは一瞬迷うように視線を泳がせて、あ、その、と呟く。首を傾げて言葉の続きを待っていると、おずおずと桃華ちゃんは心配そうにわたしの左足を指差した。

「うろこ、…広がってきたね」
「…ああ…、そうだねえ」
ただの人間であったはずのわたしは、この夢の世界ではちょっと違ったものであるらしい。わたしの左足の皮膚は、まるで蛇のうろこように硬質化している。実害もないし、どうせ夢だと放っておいたのだけれど、広がっているということは、わたしはいつか全身の皮膚が蛇のうろこみたいになるのだろうか。夢とはいえ、それはちょっと避けたい。







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