log | ナノ





「キノ、」
「なに?」
「すき」
「…うん」

夜、ホテルのスイートルーム(タダで泊めてくれる、というから有り難く受けることにしたのだ)の布団にくるまって、きゅうとキノの細いからだに抱き付いて、わたしはささやくように言った。キノはわたしの首筋にゆるゆると指先で触れる。

「…ボクも、なまえが好き」
「…えへ」

こつん、と額を合わせて、キノは恥ずかしそうにそう口にした。わたしは嬉しくなって口元が緩む。後ろからエルメスの、お熱いことで、というからかうような言葉が聞こえた。

「…エルメス、起きてたの?」
「起きてたよ、キノ。残念でした」

キノがちょっとだけ不満そうに眉間に皺を寄せる。エルメスは楽しそうにちょっとだけ声を立てて笑って、じゃあ寝るよ、と言って、それきり黙った。わたしには、それが本当に眠っているのかどうかはわからない。

「…わたしたちも寝ようか」
「…うん、でも」

エルメスが黙ってしまって(眠ってしまって、とも言うのかな)浅いまどろみがわたしの頭をうっすらと支配しはじめたので、わたしはキノにつぶやいた。キノもひとつ頷いたけれど、直後、でも、と続いたその言葉に、わたしは閉じかけた瞼を開いた。

「おやすみのキス」

キノのやわらかな声が空気に溶けて、それとほとんど同時にわたしのくちびるにキノのそれが落ちてきた。あんまりにも似合わないことをするものだから、びっくりしてわたしはあのまどろみを忘れる。

「…どうしたの、キノ」
「…別に、意味はないよ」

ふい、とキノは視線を落とした。そうしたらキノの腕が伸びてきて、ぎゅう、と結構な力で抱きしめられる。

「おやすみ、なまえ」
「キノ、苦しくて寝られないよ」
「おやすみ」
「キノ、」

キノはわたしの話を聞いていないふりをしていた。自分でもはずかしかったんだなあとわたしは気付いて、くすぐったい気持ちになる。わたしは彼女の背中に回していた腕の力をちょっとだけ強くした。

「おやすみ、キノ」
「……ああ」
「すきだよ」
「うん」

照れ隠しなのか、無愛想な返事しか返さないようになったキノに、目が覚めたらわたしからおはようのキスをしようと頭のなかでこっそり決めた。



おやすみなさい

(あしたもよろしくね)








×
- ナノ -