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がりり、口の中のそれを噛み砕いて飲み下す。秋名がわたしを見て溜息を吐いたのを、わたしは見なかったふりをした。それでも、秋名がわたしに近づいてくるのが、気配でなんとなくわかる。間違いないと確信できるくらいには、付き合いも長いつもりだ。

「飴は噛むもんじゃないっつうの」
「わかってるよ」

くらり、人工的な林檎の匂いに喉が詰まりそうになる。ゆるく圧迫されたおなかの上にある、細い彼の手に指を絡ませると、彼がくしゃりと笑ったのが気配でわかった。
だから、後ろの彼に体重を預けるのには、少しの勇気も必要がなかった。秋名はわたしをゆるりと抱きしめたまま、ゆらゆらとこどもをあやすように体を揺らす。母の腕の中で眠る赤ん坊のようにわたしは目を閉じて、兄とはぐれるのを怖がる弟のように彼の手をしっかりと握る。この手を、わたしはきっと離してはいけない。泣きたくなる一瞬をなかったことにして、わたしは口をきゅっと結ぶ。

「珈琲、飲むか」
「…うん」

わたしは秋名に預けていた体重を、体を起こして取り戻す。うん、うん。わたしは何度も何度も頷いて、ふふふと口の端を釣り上げた。
秋名の珈琲は、いつもおいしい。秋名がいれるブラックの珈琲に、ポケットの中からミルキーを二粒入れて飲むのがわたしの癖だ。今日も今日とてポケットに押し込んできたミルキー。四粒あるから、珈琲をおかわりしようか。それとも、珈琲を飲んだあと、余った二つをわたしと彼でひとつずつ分けようか。ああ、それってすてきかもしれない。

「…ミルキーなら噛み砕けないもの」
「ん、なに?」
「ふふ、なんでもない」

ポケットの中でかさりと音を立てるミルキーの包み紙。わたしにとってこれはママの味ではなくて秋名の味なのだけれどと静かに笑って、わたしはキッチンに立つ秋名の背中を見つめた。柔らかい光は、今日も窓から差し込んでその背中を無言で指さしていた。




ミルキーリリー








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