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おかしいぞ、とわたしはとりあえず首を捻った。
昨日のわたしは、たしか十時過ぎまでテレビを見て、それから友達と少しメールをして、鞄の中にその友達から借りた漫画を入れて、古典の教科書も、数学の宿題だって入れて、よし完璧、と意気込んでベッドに潜り込んだはずだ。
よって、目の覚めたわたしがいるべき場所は、ぬくぬくとした羽毛布団の中。
しかしどうしたことだろうか、なぜかわたしは晴天の下、緑色チェックのパジャマという出で立ちのまま、公園の滑り台――ゾウさんのかたち。ファンシーな見た目である――らしきものの上に立ち尽くしていたのである。
なぜだ!とわたしの脳みそが叫ぶ。いろんな疑問が湧いてくる。混乱一歩手前で、優秀なわたしの前頭葉は立派な結論をひとつ弾き出してきた。
夢だな。
一瞬のうちに浮かんできた数々の疑問をそう結論付けて、わたしはとりあえず滑り台を降りることにした。そりゃそうだ。夢に決まってるわな。どんなに寝ぼけてたって、さすがのわたしもパジャマで公園になんて来ない。
夢なら少しくらいはしゃいだって構わないだろう、と童心に帰って、わたしはゾウさんの長い鼻を滑り降りてみることにする。
つるる、と降りて地面に足を着くと、久しぶりの感覚に体がうずく。
よく見たら向こうにはブランコもあるじゃないか。わたしは勢いをつけてブランコに向かって走り出した。人のいない公園。つまりこれはあれだ。わたしの脳が作り出した、いつも頑張ってるわたしへのご褒美の夢というあれで――
「何してんの?」
「ひい」
そうしたら声をかけられて、思わず肩が跳ねた。わたしが振り返ると、そこには黒い短髪を風に揺らして立っている、細身の少年(青年?)がまっすぐわたしを見ていた。
…あ、見られた。良い年した女がわくわくしながらブランコに走ってるの、見られた。
わたしはとりあえずそれだけを自覚して、さらにわたしの夢の中に人が住んでたことに驚いて、とりあえず硬直した。恥ずかし。