その眼が何を映し出しているのかは分からなかった。とても発達したとは言い難い身体で己の手に余る程のものを抱え込もうとしている姿はあまりに傲慢ともとれた。教え込まれたコマンドの中のどれとも一致しない感情は敗北した今でも不明瞭なままだ。何故だと問われればBecause。命ぜられればYes。情報と違うのであればNo。それに疑問を持つことはなかった。何しろそれが当たり前であるからだ。ただ、理であるのかと問われるとそれはどうにも違うような気がしてならなかった。これはあくまでも教え込まれたコマンドがそういった先入観を産み出しているだけであって、そこに理など存在し得ない。覆されることのない絶対不変のものなどこの世に存在するはずもないのだから。

『なあ、どうしてサッカーが不必要だって思うんだ?』

『無駄だからだ』

『サッカーが?』

そうかなぁ。ポツリと喧騒のなか呟いた彼は怒るふうでもなく、悲しむふうでもなくそう言った。己の好いているものをそう貶されれば、大抵の人間は明らかに不満、敵意を向けてくるものだ。だがこの人間はどうもそのどれとも異なっているらしい。でも、サッカーやるんだな!たかがそれだけのことで笑うことのできる彼はよほどの馬鹿か阿呆か。やはり理解し難かった。


試合が終わった後、結果は敗北だった。何故なのだろう。何故己は負けたのだろうか。ただ、彼が立っているゴールポストをぼんやりと見つめていた。対象であった松風天馬が隣で笑っている。フェイという人物も然り。ぐわりと何かがとぐろをまく。気づけば彼は目の前だった。

「なあ、楽しかった?」

「………」

「じゃあ、嬉しかった?」

「………」

「それとも、」

悔しい?はたりと顔をもたげた。Yes.そう言葉が口をついてでるのに時間はかからなかった。見透かしたような目が恐ろしい。その反応に満足したようににっぱりと笑顔を浮かべた彼が語ることにはこうだ。あのな、サッカーって楽しいばっかりじゃないんた。俺、すっげーキツいときがあったんだよ。それでも悔しいって思えたらまた俺頑張れるんだ。ぎゅって握ったままは手が痛くなるだろ。解いていいんだよ。握ったままじゃ何にも掴めないなぁって思ったんだ。上手く言えないや、ごめんな。


もう一度勝負をするために。悔しい、それを嬉しさに変えるために。拳を解いて、君の右手を掴むところから始めようか。


空にキスを蒔く方法は君の中にある


イナクロ一話見ただけなので捏造甚だしい