※円堂さん♀で14×14


ヴヴヴ、とジーンズの右のポケットに無造作に突っ込んだままだった携帯が振動する。そういえばメールを打っている途中ではなかったかと、チカチカ点滅を繰り返すそれを取り出した。開いた画面に浮かび上がっている名前はまさに自分がメールを送ろうとしていた人物のものだった。かち、とボタンを押して耳に当てればようやく聞き慣れた彼の声。もしもし、そう言う自分の声は緊張で震えてやしないか、あちらまで聞こえそうな心臓を抑えつけていた。

「円堂、来られそうか?」

「今から出るとこ!なあ、今どこらへん?」

「もうすぐ駅の前だ。迎えに行こうか」

「大丈夫だって。近いからさ」

すぐ行くからまたあとでと電源ボタンを押す。少しばかり高めのヒールに足をはめ込み、パタンと閉じた携帯は足元に置いていたバッグへと入れられた。黒地に金の装飾がよく映えるショルダーバッグを肩に掛け、左手にある全身鏡に向かってウインクをひとつ。初めてひいたアイラインはなかなか慣れずに目元を黒く染め、いつも垂れている目を猫のようにつったイメージへと変えている。にっとまたひとつ笑って行ってきますと声を掛け、ドアを開けた。開けた先には一面の星空、辺りは街灯がちらほら散らばっている。すう、と吸い込んだ空気は朝とはまた違った新鮮さで胸を満たす。少しだけ冷たい、そんな空気。左ポケットに入れておいた音楽プレーヤーからは軽快な音が流れ込む。高揚した気分と恥ずかしさが綯い交ぜになった感情は、かつかつという音を早め、それでも小走りで彼がいるであろう駅へと足を急かした。




PM9:36。まだ中学生ともなれば、十分補導される時間帯へ差し掛かっている。このような時間に連れ出すのは初めてだと所在無く、切ったばかりの携帯のキーホルダーをゆらゆらと揺らした。自分の声は震えていやしなかっただろうか。この日のために散髪した己のピンク色は後ろに一つに纏めてある。彼女は何かしらの反応を見せてくれるだろうか。先程からそわそわとしている自覚はある。だが心配事は尽きない。携帯をいじってはしまい、また取り出してはしまう。そんな行動を何十回か繰り返した時だ。

「霧野!」

高すぎず、低すぎず。特徴のある愛しい彼女の声。この飾らない声が堪らなく好きだった。勿論、笑顔や彼女を構成する全ても同様である。今日はどのような可愛らしい装いでやってきてくれたのか。逸る思いもそのままに顔をそちらへと向ける。…惚ける、とはこのことを云うのだろうか。己の近くへとやってきた彼女の足元からはかつかつ、と一定のリズムが鳴る。夜のネオンに照らされた黒のそれは淡く光沢を放っている。以前歩きづらそうだなと言っていたので勝手にではあるが、彼女はヒールは履かないものだと思い込んでいた。それも手伝い、余計驚いたのだ。すらりとした足はサッカーをしていることもあり、程良く引き締まっている。スキニーがそれを顕著に表していた。紫と赤のパステルカラーの薄いポンチョは確かに押し上げる双丘の存在をはっきりと此方に認識させる。肩口から覗く肌が、白い。急に襲ってきた背徳感に堪えきれず、慌てて胸元から視線を引き剥がした。

「どうしたんだ?」

いつもならきょとりとした顔も可愛いなと終わるところだが、今日はどうもそういかないらしい。ぱちりと開いた目元はアイラインが黒く飾る。それでいて、チークはピンクが彼女のまろい頬で踊っていて。いわゆる、小悪魔メイク。サイドにゆるくカールが施されたチョコレート色の髪を弄る姿すら小悪魔に見える。ふふ、と含んだ笑みをもらした円堂にどきりと胸が跳ねた。

「こんな感じ、好き?」

ねえ、蘭丸。むせかえるほどの甘い香りにぐらり、揺れた。



奏したアガペーに祝福を



手を出してほしかった円堂さん
supercell♪「LOVE&ROLL」