連なる狐火は、千間を優に越える長さを持って僅か目と鼻の先から霞むほど先にまでゆらゆらと朱の色をくゆらせている。ざりざりと足の裏で擦れて音を出す砂利道はそう遠くない場所で途切れていた。明々としたその通りは夜の街。色情が飛び交う花街だった。おおよそ己の武士道としては相応しくないと御舘様の勧めであろうとも断り続けてきた兵頭が、今まさに足を踏み入れようとしているなど誰が想像しただろう。彼だとて彼自信の意志で足を運んできた訳ではない。というのも此処へは戦の骨休めに寄った為である。因って兵頭にとってはとるに足らぬことだった。検問を済ませ、改めて辺りをぐるりと見回してみると、その明るいこと明るいこと。なんともなれぬ場所だと思わず歩く速度を速めた。街行く人々をこいこいと誘う、柵から伸びる白い手を何故だか見ていられずにふい、と空を見やる。ところ狭しと建ち並ぶ館の間からぽっかりといやに白い月が此方を見下ろしていた。


兵頭が店へと入ったのは月がやや傾きかけた頃だった。馴染みだという近藤に連れられ、入ったのは奥の座敷。本来ならば、顔見せから順に段取りを踏まねば会うことなど赦されないようだがそこは近藤が
気転をきかせたのか、連れ添いという理由で入れてもらえるようだった。そうはいっても兵頭とて阿呆ではない。この場が何をする場なのかくらいは心得ている。引け四つが鳴ればそそくさと退散させてもらおうと思っていた。そこへ声を掛けてきたのは小さな禿。すす、と襖が引かれ守莉姐様と小さく声が落ちた。

「守莉でありんす」

中性的な声音で面を上げたのはやはり中性的な顏(かんばせ)の、人。元来大きいのだろう双貌には朱が彩り、未だ幼さを残したままのまろい頬はただにこりと笑んだ。御久しゅう御座いますと口上通りに言の葉を紡ぐその口に永久の笑みを与えてやりたいと庇護欲が涌き出た。あまりに幼いかの人はただ月を眺めているだけだった。

たれゆゑに呉のまにまに野蒜かな

遊廓パロディ
一応水茶屋。陰間。
できたら続く