執務室で煮詰まるジョルノを眺めたブチャラティの瞳はやさしく細まったので、ジョルノは羽ペンを弄びつつ「なに見蕩れてんですか」と皮肉たっぷりに苛立ちをぶつけてしまった。それにも構わずブチャラティはソファから腰をあげつつ「見蕩れもするさ」なんて言いのけるので、瞬間ジョルノはたじろいでしまった。テーブルから取りあげたティーポットを持ったままデスクまで寄る彼の足取りが、ある種の誘惑だと感じたとたんに。

「仕事の調子はどうだい、ジョルノ」
「お陰様で絶好調ですよ。羨ましいなら代わります?」

 ひとときですら戸惑ってしまったのが悔しくて、ジョルノはトゲのある言い方をしたし、またやつ当たりのようにした。諸経費の計算に頭を悩ませ続けていたからだ。無駄を嫌うジョルノにとって「雑費」の一項目で片付いてしまっている経費は何よりの敵だった。明確化しようとあれこれと領収書とにらめっこを続けている。

 先日ミスタが寄こしたのには特に手を焼いている。乱雑な彼が、領収書をきちんと提出するようになったのは良かったものの、あまりの金額にお手上げだった。もちろん財源の心配をしているのではない。だが、もしもこれから先、削れるような経費ならば今の内から削ってしまいたい。

「遠慮しとく。紅茶のおかわりを入れようか」

 ブチャラティは空になったジョルノのカップを手に取って、ティーポットを傾ける。中のアールグレイがとぷとぷと流れ込んだ。そのそばから白く湯気が立ち上って、葉の上品な香りがする。ブチャラティはカップをソーサーに戻してその傍らにポットを置く。

 短く「グラッツェ」と呟いて、カップを持ちあげるジョルノはいまだ隣を離れようとしない彼を不審がったけれど、そのまま傾けて一口飲んだ。カタ、とソーサーが軽い音を立てる。

「ボス自らそんな計算をするなんてな」
「必要なことです。フーゴに任せたいところだけど、彼は今別件で外してるし。これは今日中にやってしまいたいんだ」

 ジョルノは重たく息を吐いて、背もたれに深く背中を預けた。上等な革で設えられたやわらかな椅子が軋む。ぶらぶら、と退屈そうに足を揺らして領収書の束を拾い上げる。ほんとうは自分だってこんなことをしている場合ではないのだ。

 四日後に来賓にと招かれたパーティを控えているので、新しいスーツも仕立てなければならないし、情報管理チームには別組織の内情を調べ上げるように連絡をしなければならない。それから先日新装開店と相成ったカジノにも出向いてその具合を確かめなければいけないし、護衛チームに入ったという新人の仕事ぶりだってこの目で見ておきたい。そのチームのリーダーもここのところ良く働いてくれているのでそろそろ幹部への格上げも悩みたいところなのだ。

 すべきことはたくさんあるのにも関わらず、ここまで諸経費の計算に足を取られているだなんて。神経質なジョルノにとっても許しがたい現状である。だけれど放っておくことも出来ないでいた。

「考え込むのは良くないな。フーゴのまとめてくれたように雑費でいいじゃないか」
「気になるんです。気になったらどうにもそのままにしていられなくて」
「なあジョルノ。考え込むな。お前はもっと広くを見なくては」

 悪い癖だぞ、と続けるブチャラティにジョルノは眉を潜める。あなたもそれが口癖ですね、と言いたいのを心の内だけで留めた。ブチャラティがジョルノの手から領収書の束を奪ってしまったからだ。

「どういうつもりですか」
「今日はスーツを仕立てに行くんじゃあなかったのか? 店が閉まるぞ」
「……もうそんな時間でしたか」

 窓枠で切り取られた外の風景は、もう夜も深いようだった。葉を散らした枯れ木達が寒風に吹かれている。柱時計に目をやれば、もう七時半を指していた。ジョルノは夢中になりすぎていた己を恥じながら再度カップを手に取って、すっかり飲み乾した。

「出掛けます」
「俺も行こう」
「結構です。一人で行けます」
「それは知ってる。護衛だよ。な?」

 執務室の衣装掛けにぶら下がるジョルノのコートを広げながら、ブチャラティが言った。ジョルノは眉をさげつつ「お願いします」と観念した。濃い紺色のマフラーを手渡されて、ぐるぐると巻きつける。執務室のドアを開いたブチャラティもまた、自分と同じようにコートを羽織っていた。やけに行動の早い男だな、と思いつつジョルノはドアを潜る。



 言葉少なに二人は冬のネアポリスを歩いた。冷え込みの厳しい夜で、辺りを行き交う人々は各々にしっかり着こんでいる。その誰もが冷たい風からできるだけ避けるように街路の端を歩いていた。

 まっしろな息を吐いては、二人は冷えた煉瓦道を行く。ブチャラティはコートのポケットに両手を突っ込んでいて、ジョルノもまた同様だ。会話の無い道中、二人分の足音だけが絶え間なく聞こえ続けている。

 それがとん、と止まったのはブチャラティが立ち止まったからであった。バールとピザ屋の丁度真ん中だ。細い路地をじっと見つめてしまっている彼を訝しげに見やる。

「どうかしました?」
「ジョルノ、猫が居る」
「……ねこ?」

 ほら、とブチャラティは声を小さくして指をさす。ほんとうだった。真っ白い猫が一匹、コチラをその金色の瞳できょとんと見つめていた。ブチャラティはゆっくりと腰を降ろして、猫をさしていた指を開いておいでおいでと動かした。

 きっと逃げちゃいますよ、と言おうとしたときに、猫はゆるやかに背をしならせつつ静かにブチャラティのそばまで寄った。ジョルノは先ほどの猫とおんなじにきょとん、としてしまった。

 白い猫はブチャラティの足元へ擦り寄り、暖を取っている。まるで母猫に甘えているようにも見えた。

「人に慣れてるんだな、コイツ」
「けど首輪がありませんよ」

 ブチャラティの横へ腰を下ろしながらだった。しかし猫の方はジョルノには目もくれず、その頭をこすこすと相変わらず彼の足首へ擦りつけている。

 なんだかおもしろくないな、なんて子供みたいなことを思ってしまった。悔しい。ジョルノは気づかれないように、むっとする。ブチャラティは擦り寄る猫の頭をふわりと撫でている。にゃあ、と鳴く猫にあたたかい眼差しをむけたりして。

 店が閉まるぞ、なんて僕を急かした人が道草を食ってちゃあ世話がないな、と胸のうちで悪態をつく。彼と執務室を抜け出すことで気分転換にでもなるかと思っていたのに。そりゃあ猫は愛らしいけれども、どうして彼がこんなに執着を見せるのかが分からない。いつだってブチャラティはジョルノやジョルノの仕事を優先する男だったからだ。

「かわいいな」
「そうですね」
「こんなに寒いのに、一人ぼっちなのか」

 そのまま「連れて帰ろうか」なんて言い出してしまいそうな声色だったので、ジョルノは耳を塞ぎたくなった。猫なんて放っておいて、僕のほうを見れば、とも思ってしまった。

 たった一匹のちいさな猫にすら嫉妬してしまうだなんて笑えてしまう。一体自分はどれだけ彼のことを気に入っているのだろうか。

 いつもであったら、このくらいなんてことはない。それに自分の恋慕の情など隠してしまうのは容易い。筈なのに、どうしてか今はそれができないでいる。自制の聞かない歯がゆさにジョルノはそっと視線を落とした。二人分のぴかぴかした革靴と、白い猫。いまだ飽きずにブチャラティの足元でごろごろやっている。

 憎らしいばかりの猫はもう一つにゃあ、と鳴いた。それにまた彼ははにかむ。かわいいな。

 僕はそうは思いません、なんてまた言わずに飲み込んだ。何故そんなに猫に構うんですか、と言いたいのに出来ない。ジョルノは居心地の悪そうにあっちこちへ視線を移した。

 細い路地にはそれらしいゴミ箱やピザ屋の勝手口がある。ブチャラティの言ったように他の猫の姿はなかったし、こんな冷え切った夜を過ごせる満足な風避けもないように見える。こんなところに居たんじゃ、明日の朝には弱り切ってしまうだろうことは容易に想像できた。それでもジョルノは「連れて帰りましょうか」なんて口が裂けても言えないでいる。

 ブチャラティが取られてしまう気がしていやだった。

「かわいそうにな」
「何が言いたいんです」

 ジョルノは分かりきっていることを聞いてしまった。きっと次に彼はジョルノの想像通りに「連れて帰ろうか」と言うのだ。そしてそれを断れないのも想像がつく。

 だが、ブチャラティはジョルノの意に反して、まったく別のことを言った。

「何が言いたい? それはお前の方だ」

 はた、と空気が止まった。ジョルノは聞き返しそうになった。なんだって?

 ブチャラティは深く溜息を吐きつつ、ジョルノにやっとこ目を向けた。もちろん猫の頭を撫でたまま。ジョルノは少し怯む。

「どうした? 俺に何か言いたいことがあるんじゃあないのか?」
「……わけがわからない。僕、そんな顔してます?」
「ああ、してるね。僕に構えよ、って?」

 ジョルノは自分の身体が急に熱くなったのを感じた。そんな馬鹿な。自分は何も言っちゃあいなかったし、態度にだって不服そうなのは出ていなかったはずだ。

 それなのにブチャラティはあれだけ耐えたジョルノの胸の内をぴたりと言いあてる。なあ、そうだろ。と念を押しながら。

 何も言えないでいるジョルノは、撫で続ける彼の手を猫から取りあげた。たまらず握りこんだ。たしかに、ブチャラティの温もりだった。なんだか酷く久しぶりのように思える。その温もりへ、今すぐにでも頬ずりがしたかった。猫にしたのと同じように、自分の髪を梳いて欲しいとさえ思う。

「お前はほんとうに素直じゃないな」
「貴方はほんとうに意地が悪いですね」
「よく言われるよ」

 ブチャラティの指はジョルノの手の中で形を変えて、さも当然といった具合にジョルノの指を絡め取った。恋人同士がそうする形になった。きゅ、と握る手に力がこもる。じんわりと暖かい。

「あまのじゃくなお前の相手をするのが楽しくてなあ」
「趣味も悪いですよ、ブチャラティ」
「お言葉だがなあ、ジョルノ。お前を選んだ俺の趣味が悪いだなんて誰も言えないんじゃないか」

 よくもまあこの男は歯の浮く台詞が次々に言えるもんだ。ジョルノはまた上手く言い返せやしなかった。その代わりにブチャラティから視線を離して、猫へ向ける。

「……朝には弱ってしまうでしょうね」

 先ほどなら絶対に言えなかった言葉だった。己の口から発せられた声のやわらかさに嫌気がさした。こんな風に手を握られたくらいで、今まであんなに憎らしかった猫に庇護欲がわいた。いよいよジョルノは自分の頭はおかしくなってしまったのではないかと思う。

 手を握られたくらいで、こんなにも満たされるのだ。手を握られたくらいで、猫よりも優位になったと安心さえした。

 手を握られたくらいで、とは言えども。それはなんだか懐かしいようなあたたかさがある。今にも泣き出してしまいそうなくらいだった。いつから自分はこんなに弱くなってしまったのか。

「そうだな」

 言いながらブチャラティは、首に巻いていた黒いマフラーを取り去って、猫へと巻きつけた。白い猫は満足気に鳴く。ふかふかのベッドが出来た。これを咥えてまた路地へ戻ってくるまれば、きっと寒さには耐えられるだろう。

 てっきり連れて帰る、と言いだすのかと思えばそれも違った。彼の真意が読めない。逆にこちらの気持ちなどは覗かれているのかというくらいに手に取られている。おかしいな。いつもならこんなことにはならないのに。自分が気づいていないだけで、熱でもあるのかと疑ってしまう。

「さて、そろそろ行こうか」
「え」
「お前のスーツを仕立てにいくんだろ」

 ああ、そうだった。スーツを仕立てに行くんだった。先に立ちあがったブチャラティに腕を引かれ、腰を上げる。少し歩けば猫の居た路地は見えなくなった。ジョルノは一度振り返ってみたけれど、猫の姿はもうなかった。ブチャラティのあたたかなマフラーを咥えて、路地に潜ってしまったんだろう。



 人通りが少なくなったからと言って、手を離してしまうのはもったいないような気がした。ブチャラティの方からも離す気配はない。ジョルノは結局それに甘えてしまった。

 自分よりも五つも年上であるブチャラティの手はひろくて、筋のきれいなその指はジョルノの手の甲までも覆う。

「お前はどんな色が似合うかな。形はぴったりしたのが良さそうだが」
「どんなでも構いませんよ。それらしく見えれば」
「何着たってそれらしいさ」

 そう言った彼の顔のおだやかなこと。嘘偽りの見えない面持ちだ。ジョルノは気を良くして「そうですか」と繋ぐ。

 仕立て屋まではまだ辿りつかない。ほどほどに歩いてきたけれど、あとどれくらいだろうか。ジョルノは左腕に巻いている腕時計をみようとした。が、いつも付けているはずの腕時計が無い。いつ外したのか思い出せない。それくらい長い間外していたのだろうか。

 行き場の無い腕をそっと降ろす。するとブチャラティはまた足を止めた。今度はなんだと彼を見上げたのだけれど、ブチャラティは黙ったままだ。

「ブチャラティ?」

 問いかけても返事は無かった。代わりにどこか遠くで別の誰かがジョルノを呼ぶのが聞こえる。振り返ってみれば、いまネアポリスには居ないフーゴの姿があった。仕事が早くに片付いたのだろうか。そういった連絡は受けていないのだけれど、十分あり得る話ではある。

 ジョルノはとっさにブチャラティと繋いでいた手を離した。フーゴに見られてしまうのは避けたかったからだ。

「ジョルノ」

 向こうのほうから駆けてきたのであろうフーゴが息を整えながらジョルノを今一度呼ぶ。「なんですか」と言ったつもりだったけれど声が出なかった。

「ジョルノ、風邪をひきますよ」

 なんの話だろう。確かに今日はいやに冷え込むが、こうして厚いコートを着込んでマフラーだって巻いている。外に出ているだけで「風邪をひきますよ」なんて気にしすぎじゃあないだろうか。

「起きてください、ジョルノ!」

 ジョルノは、耳を疑った。次の瞬間、現実に引きあげられた。



 暖炉の火も無い執務室を照らしているのは、ジョルノの目の前のデスクランプだけだった。冷え込みに肩をすくませつつ身体を起こす。どうやらいつのまにか眠ってしまっていたようだ。デスクの上には領収書が散らばっていて、熱心に叩いていた電卓は隅に追いやられている。

 そこにブチャラティの姿はなく、フーゴだけが困ったように笑いながら佇んでいた。そうか。夢を見ていたのか。ジョルノは出来るならもう少し長く見て居たかったな、と思う。

「珍しいな。居眠りだなんて」
「ここのところあまり眠れてなかったからかな」
「僕はあなたを抱きあげて運んだりできないんですから。眠るならちゃんと仮眠室を使ってください」

 それに、僕が帰ってこなきゃあ本当に風邪をひいてましたよ、とフーゴはごちる。普段からフーゴは何かにつけてジョルノの身を案じているので、ジョルノはそんなお小言には慣れっこだ。

 フーゴはすっかり冷めたジョルノのカップを持ちあげて「淹れなおしますか」と問う。それに「お願いします」と返せば、彼はキッチンの方へ姿を消してしまった。

 本当に、出来るならもう少し甘い夢を見て居たかった。ジョルノは自分を起こしたフーゴに文句の一つでも言いたい気分だ。

 おかしい筈だった。彼の手が暖かいだなんて。自分の気持ちを上手くコントロールできないだなんて。彼が傍らで、仕事を続ける自分を優しく見守っているだなんて。

 都合の良い夢だったな、と思いかえした。切なくなったとしても、ジョルノにとって夢の中の彼のぬくもりはたしかなものだったからだ。思い出すように、右手を握る。それから左手と絡めてみる。ブチャラティよりも小さな手は、彼のようにジョルノの右手の甲を覆うことはない。これからもずっとだ。

 胸を締め付ける喪失感から逃れたくて、夢でブチャラティと繋いだ右手を頬へあてた。偽りだってよかった。もう一度彼に触れて、彼の温もりを感じられた。二度と叶わないことだと思っていたのに。

 瞳を閉じて、自分を愛した彼の言葉のひとつひとつを頭の中で再生する。それには生前の言葉も含まれた。「お前なら立派にボスを務めあげられるだろうな」だとか「お前と居ると退屈しないな」だとか。いつ言われたのかまでは覚えていないし、一語一句間違えていない自信もなかったけれど。

 過去に縋るような夢だったな、と思う。こんな自分を彼が見たら笑ってからかうだろうか。それとも悲しそうにするだろうか。ジョルノはどっちだってよかった。もう一度彼に会えたとしたら、どちらの態度を取られたっていい。どんな風だったとしても、結局おしまいにはまたジョルノを甘やかすのだろう。ジョルノの知るブチャラティとは、そういう男だった。

 温まった右手をそっと離す。大丈夫だ。自分は弱くない。甘い夢に引きずられて落ち込むような質でもない。彼が残した暖かみなんてのは、彼が居なくともずっと在り続けるのだ。

 デスクの上には腕時計があった。サルディニア島へ渡る前、ヴェネツィアにてブチャラティがジョルノに贈ったものだ。いつかのボスへ、と渡した彼のほがらかとした顔を思い出すたびに、これまで何度も勇気づけられた。無機質であるはずの腕時計だって、ほらこんなにも温もりをもっている。

 ジョルノは彼からの贈り物へ腕を通した。デスクランプの不確かな光をちかり、と跳ね返す。彼の正義や優しさは、こんな風にいつまでも自分の近くにあるのだ。

 しかし夢にまで出てきてあんなに愛おしげにみつめてくれなくったってよかったのに。夢というのは深層心理の願望の表れだと聞いたことがあるものの、それは嘘じゃないだろうか。思うに、あれは彼が化けて出たのに等しい。何故ならジョルノ自身、彼が居なくとも悲しくは無い。もう一度会えたらと思う事はあっても、彼を探してまどうことなどないのだから。

 ブチャラティは今もジョルノに内在する恋情の中に、確かにパッショーネとともにある。

「やけに一人で楽しそうですね」

 そこへフーゴが二つカップを持って戻ってきた。そう見えるかい?と返せばフーゴはおどけてゆっくり頷いて、ジョルノの前へカップを置いた。

 フーゴがデスクへ寄りかかりながら、カップを傾ける。ジョルノはカップを両手で包んだ。つるっとした陶器からアールグレイの暖かいのが伝わる。そう言えば夢でブチャラティがいれてくれたのも同じ紅茶だったっけな。

「いい夢をみたんだ」
「へえ。どんな?」
「言ったらきっと君は笑うだろうからなあ」

 なんですかそれ、とフーゴは首を浅く傾げた。

 窓の外を見れば、ひっそりとした雪が静かに降り始めている。どうりでこんなに冷えるはずだ。ジョルノはしんしんと雪の落ち続けるネアポリスを眺めた。そういえば天気予報で夜から降るかもしれない、と言っていたような気がする。

 さてもう一仕事しようかと、ジョルノはゆっくり背筋を伸ばした。フーゴはデスクの片隅を使って、済ませてきた仕事について書かねばならない報告書の作成に取り掛かっている。ふと視線がかち合った。

「ジョルノ、カーテン閉めましょうか」
「……ううん。このままでいいや」

 そうですか、とフーゴはまた報告書へペンを走らせる。試しに「早かったね」と声を掛ければ「思ったよりもスムーズだったので」とフーゴは言った。やっぱり、あり得た話だったなあ、と微笑む。

 すると窓の向こうで小さな物音がした。植え込みの草が何かで擦られた音らしい。フーゴが警戒して再び顔を上げるのを「気にすることはないよ」と制止した。

「きっと猫でもいるんだろう」

 黄金の瞳をした、とびきりまっしろなやつが。




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