ナランチャ・ギルガが組織へ身を置いてから半年が経つ。十六歳になったナランチャは、不慣れながらにもブチャラティの後ろにくっついて、出来るだけの仕事をこなしていた。それは、飲食店の店主からみかじめを頂戴したりだとか、街ゆく老人と世間話をしたりだとかで、ナランチャの思い描く「ギャング像」からは遠くかけ離れているので少々退屈だった。
今日だってナランチャが請け負った仕事は「ネアポリスをぐるぐる歩きまわりながら、アヤシイ奴がいないかパトロールをすること」だった。ブチャラティの前では決して言わないけれど、正直言って飽き飽きしていた。こんなこと、誰にだって出来る。ギャングってやつは、もっと抗争ばかりして武器を取って戦うものだと思っていた。もっと華やかなものだとも思っていた。
それでもブチャラティが「パッショーネの内部事情」について話してくれる時間は好きだった。彼はナランチャに、暇を見つけてはパッショーネという組織の仕組みのことをできるだけ易しい言葉を選んで話して聞かせてくれた。
ボスという男は存在しているものの、誰も見たことがないということ。それでもしっかり組織は機能しているのだから、彼の正体を暴こうだなんて考えてはならないということ。この組織にはボスの親衛隊という者が何人だか居て、その下に幹部が居り、自分達はそのまた下のチームに属する末端の構成員だということ。
「つまり、幹部になったら好き放題出来るって意味?」と、首を傾げながら聞いてみたときに、ブチャラティは気の抜けた声で「ああ、そうだ」と笑ったのをナランチャは今でも覚えている。何故ならその笑みがなんだか優しい気がしたからだ。どうして彼が優しく笑ったのかは知らないけれど「よく勉強できてるじゃないか」と続けて彼は褒めてくれた。
ナランチャはそのとき、また子供扱いかよ、とぶーたれたのだけれど悪い気はしなかった。「よく勉強している」と褒めた彼が嬉しそうだったからだ。きっと、学の無いナランチャの理解が彼にとって喜ばしいことだったからに違いない。一つ学ぶたびに、一つブチャラティに近付いているような感覚があった。ナランチャはそれがくすぐったかった。はやく一人前になって彼の後ろではなくてその横で働きたい。
そんな思いが、ナランチャを勤勉にさせた。物覚えのよくないナランチャの教師役に充てられたフーゴが、キレることはあれど途中で投げ出さなかったのは、ナランチャの学ぼうとする姿勢に美徳をみたからだ。
四苦八苦しながら足し算や引き算を覚えたし、作曲家の名前も分からないようなくらいに古い歌も覚えた。時にはフーゴに連れられて、町の小さな美術館に行ったこともある。そこで実際にふれた美術品の数々にあとから感想を述べよという課題であったのだが、語彙の乏しいナランチャは「すごい」と言ったきり口をつぐんでしまった。名も無いような画家の、彩度の低い絵の前での出来事だ。
木製の額にはめ込まれた夜の港の風景画だった。大きな満月と、散らばる星たち。それから遠くにある灯台のおぼろげな光の線と、小型の漁船が並んで三艘。なんてことのない一枚。
フーゴが先生のように「どこがどうすごいんです」と促すので、ナランチャは言葉をなんとか探しながら「俺はいままでにこんな色をした空をみたことない。や、みたことあったんだとしても、別に気にしなかったんだ。なんていうのかな、空は青と黒とたまに赤くなるくらいにしか思ってなかったから」と思ったまんまに言った。
「なあフーゴ。この空の色はなんていう名前?」
突き詰めてしまえば紫紺と名付けられた色合いだったのだけれど、フーゴは難しい顔をしてしばらく答えられずにいた。色の名前、というのはほとんど無数にあった。その中でフーゴが記憶している色の名前にあてはめるなら「紫紺」というだけなので、そのまま伝えてしまうのもどこか違うような気がしたのである。
絵画に塗られた色というのは、所謂たくさんの色が交ざり合った色合いだ。濃い色を置いて、その上から薄いのを塗れば、下の濃い色がうっすらと見える。それに色の見え方はその手法によって様々である。何色も何色も混ぜて塗られている部分もあれば、隣り合った色の効果でまったくの別の色のようにみえることだってある。
フーゴ自身、美術教員の免許を持っているわけではないので「正解」としてナランチャに与えられる答えを持ち合わせていなかった。ナランチャは未だ答えないでいるフーゴを不思議そうに眺めた。フーゴがすぐに正解を教えないのは珍しかったからだ。
「……君にはどういう色に見える?」
「え? えーっと……そうだなあ、あかるく見える。月も星もあるだろ? でも暗い夜もある。夜にはいろんな種類があったんだなって思った」
またナランチャは思ったまま、素直に言ってみた。そして同じようにフーゴは答えない。自分の答えが見当違いも甚だしいものだったのだろうかと、次に怒号とともに飛んでくるであろうフーゴの鉄拳に身構えようとした。けれど、どうやらそうでもないようだ。まっすぐ見つめてくるフーゴの視線の意味を正しくとらえられなくて、内心怯えた。
もしもフーゴが、ナランチャの頭の悪さに愛想を尽かせて教師役を降りたとなれば、必ずブチャラティに「いくら僕であっても、アイツはもう手に負えない」と告げるだろう。フーゴの言葉には重みがあるのだ。小難しい言葉をたくさん知っているから理由だってしっかり伝える。それを聞いたブチャラティはナランチャを見捨ててしまうかもしれない。それが怖かった。
「……なんか違った?」
「いや、僕は君みたいな考え方をしたことがなかったから」
「怒ってる?」
「違うよ。ナランチャなりの考え方だろ? 感想に、正しいも間違いもないんだ」
その後に言われた「君から教えられるなんてね」と言った真意も、ナランチャの頭ではわからなかった。だけどフーゴの声色には嫌味のひとかけらもなかったので、きっと褒められているんじゃないかと受け取っておいた。
それからのフーゴは、今回のような正解の無い問題にナランチャが出す答案を見て、しばし考え込むようになった。個々の人間における観点の違いという点に、フーゴが興味を持ったからである。物事を多面的に観る、という概念こそ理解していたつもりだったが、実際に考え方がまるっきり違う人間と出会ったらこんなにも面食らってしまうのか、とフーゴは打ちのめされる。彼もまた、年端も行かない少年だった。
なのでナランチャの怖がったブチャラティへの報告は「お恥ずかしい話ですが」の一言で始まって「僕もまだまだ勉強不足みたいです」と締めくくられた。これまでの驕りを恥じるフーゴに、ブチャラティは「お前の成長はまったくめざましいなあ」と返した。己を省みるというのはなかなかできることではないとブチャラティは考えている。そしてそれを他人に告げたりするのは更にむずかしいのだとも。
◆
ブチャラティはここ最近贔屓にしているお気に入りのリストランテで、遅めの昼食をとっていた。運ばれてきたのは夏メニューの看板スパゲティと打ちだされているらしく、夏らしくすっきりと冷えたフルーツトマトがふんだんに盛られている。なめらかなモッツァレラチーズがころころしていて、その上にバジルが乗っかっていた。
銀のフォークで具材の山を崩しながらもスパゲティを巻きつけないでいるブチャラティは、午後の仕事内容について考えを巡らせていた。食事のときくらい仕事の話はやめにしませんか、等と所帯じみたように咎めるフーゴも今は居ない。
まずはこのリストランテが面している通りの店を一軒ずつ回って。それからアジトに帰ってポルポからの連絡が入ってないかを確認したら、先月の経費の計上をしなければならない。あとは執務室の観葉植物に水をやって、それから休憩を挟もうか。いや、その前に今月分の給料を計算して明日には皆の手元へ渡るように手配しなければ。
見栄えよく盛りつけられていたはずのトマトとチーズも虚しく崩れきってしまうころ、背中のほうから「ブチャラティ」と声がかかった。ナランチャだった。
ナランチャはブチャラティの正面にある椅子へ腰掛けながら「やっぱここに居た」とだけ言って、運ばれてきたミネラルウォーターを一口飲んでから、重たく息を吐いた。どうやら食事をしにきたわけではないらしい。
「どうした?」
「や、たいしたことじゃない……。ブチャラティ、それ食わねえの?」
「ああ……食うよ」
言ってから、ブチャラティはやっとフォークへ巻きつけて口へ運んだ。いつもならゆっくりとその味わいを堪能してから美味いな、と添えるのだけれど今はナランチャが珍しく溜息なんて吐きながらぼんやりとしてしまっている。
これまでに自分からの問いかけにナランチャが「たいしたことじゃない」だなんて、まるで大人のように答えたことがあっただろうか。
それとなく何があったのかと切り出してみるか。このまま、向こうから話すまで黙っていようか。ブチャラティが選んだのは黙っているほうだった。うんうん唸りながらグラスを弄ぶナランチャを眺めながら、いつもよりも早いペースで平らげていく。ナランチャが語り始めるまでそうしていたので、結局真っ白な皿の底が見えてきて、残ったのはバジルとトマトの皮だけだった。
「あのさ」
ちらちら、とナランチャの伺うような視線と相まって、どうにもやさしく「どうした?」と声が出た。ブチャラティは給仕係を呼びつけて皿を下げさせ、ナランチャへクランベリージュースを持ってくるように申しつける。
「俺、ちゃんとブチャラティの役に立ってる?」
ナランチャは心配だった。フーゴは持ち前の聡明さでもって、いつだって組織やブチャラティに貢献している。その上最近はフーゴ一人に任せられる仕事も増えてきた。その内容は、ブチャラティがこれまでこなしていた仕事の一端を引き継ぐといった形であったので、そこもまたナランチャが焦る理由である。
今までブチャラティの受け持っていた仕事が、一つ、また一つとフーゴに割り当てられているのをナランチャは知っている。ただでさえブチャラティの仕事量は膨大なものなのでそれが減るのはいいことだ。だけど、減らした任務のほとんどはフーゴへと割り当てられたのだ。ナランチャのところへ回るものは一つだってなかった。
また、フーゴはナランチャよりも先に組織へ入ったのだとは言えど年下だ。年下ばかりが力を付けていて、自分はなんにも任せちゃもらえない。不満というよりは己に対する憤りだ。半年間ブチャラティとともにあっても、まだ一人ではろくな仕事もさせてもらえていない。それはナランチャの自信をすこしずつ削ることだったし、己の未熟さに腹が立つことでもある。
ブチャラティ本人に問うことこそナンセンスなのだけれど、いよいよ耐えかねたのだ。不安だった。お前なんて居ても居なくてもおんなじだ、と言われているような気分だった。ナランチャにはパッショーネのブチャラティのそば以外に居場所を持っていない。学校へも通っていなければ、暖かい家族もいない。友達と呼べていたものにも裏切られた。
ナランチャはパッショーネにいなければひとりぼっちだ。
「最近何を焦ってるのかと思えば。そんなことか」
「そんなこと? 俺、ヘコんでるんだぜ。フーゴにばっか仕事が増える。俺はまだブチャラティにおんぶにだっこだし」
「おんぶにだっこ、か。また新しい言葉を覚えたな」
とん、とナランチャの前へクランベリージュースのグラスが運ばれる。
「はぐらかさないでくれよ。真剣なんだ」
縋るような眼差しだ。理由があるとすれば、ここだろうなとブチャラティはカップのアイスティーを傾けた。ナランチャはどうしてもブチャラティのことを、悪い意味で気にしすぎるきらいがある。彼からの言葉がナランチャの全てであり、ナランチャを生かしているからだ。それが重荷だということではない。ただ、これから先別のチームへ異動するようなことがあったとして。そのチームで上手くやっていけるのだろうかと思うからであった。
本来ならばこの辺りでフーゴと同じようにすこし責任がつきまとうような仕事を与えて、自立していくように彼へ任務をまわすべきなのだろうと考えてはいるのだけれど、踏み切るのもまだ早いような。
つまりブチャラティはチームのリーダーとして、というよりもむしろ兄のような立場からナランチャと接している傾向にあった。そう望まれたのではないにしろ、ブチャラティからすればフーゴだってナランチャだって、まだまだ幼い。道理から言えば二人ともまだまだ子供であり、親の保護下へおかれるべきなのだ。だがそれが不可能な以上、自分が二人の親であり兄であるのが良いのだろうと。
「俺、早く一人前になりたいんだ。アンタが俺から目を離したって安心して任してもらえるように」
「だったら我がままを言うんじゃない。今はまだ俺の後ろでしっかり見てろ」
「もう飽きるくらい見たぜ!」
「そうか。じゃあナランチャ。このリストランテの真向かいにカジノがあるのは知ってるな?」
この辺り一帯はいわゆる繁華街としてネアポリスの中でも特に栄えている一角だ。夜にもなればそこかしこにネオンが灯り、眠らない住人や観光客が遊び潰すので朝まで賑わいを見せている。
話にあがった真向かいのカジノや、今いるリストランテだってブチャラティの管轄している店に他ならない。カジノからのあがりや、飲食店への介護料が主な収入になっているというのはナランチャもしっかり理解していることである。
当のカジノと言えば、先日ブチャラティに連れられて一晩遊んだのだ。ナランチャはブチャラティがまるで夢のように勝つのをその目でみた。入口に控えるいかにもな風貌な二人の大男も、きらびやかな装いの女性もたくさん。初老の男性がオーナーだというのも知っている。人の良さそうなオーナーで、彼はナランチャがブチャラティの部下だと知るやいなやフルーツやジュースをふるまってくれた。ディーラーがトランプを切る手さばきも見事なもので息を飲んだし、積み上がるコインやチップはとくべつにギラついて見えた。
そんなカジノがなんだと言うのだ。ナランチャは退屈そうに「知ってるよ」と口の先っぽを尖らせる。
「じゃあ聞くが、オーナーの名は?」
「な、名前?」
「ディーラーとして勤めているオーナーの息子がいるが、彼を見たか?」
「……え」
「そしてその彼が足を患っているのは? 気がついたか?」
ブチャラティの眼光は、すっかり仕事中のそれだった。押し黙ってしまうナランチャはそんな目を見ていられなくて、まだ一口も飲んでいないクランベリージュースの注がれたグラスへと視線を移す。
何一つとして答えられなかった。
「なあナランチャ。お前は多くを見たかもしれんが、広く深くまで見られてはいないんだよ」
諭すような優しい声だったが、それでも確かに重圧感があった。ひしひしと感じる。ナランチャの瞳が揺らいだ。
「俺達の仕事はそういうことだ。お前が俺の下で働きたいと思ってくれているのは分かっているし、嬉しい。けど、俺のために働くんじゃあない。ネアポリスのために仕事をするんだ」
ギャングらしからぬ物言いだったのかもしれないが、ブチャラティの本心だった。もっとも「街のため」とは言えど結局はパッショーネのため、金のため、とも言えるのだけれどブチャラティは正義の人間だ。ギャングの組織に身を置いてはいるものの、彼は彼の信ずる正しさのもとにある。警察のように表立って正義を執行するわけではない。あくまで「裏から」そうするのが良いのだ。性分に合っているとも言えた。
ナランチャだって、その正しさに惹かれたことに間違いはない。
「……ごめん。ブチャラティ、俺……」
「いいんだ。それに責めてるわけじゃない。お前はよくやってる」
次第にやわらかくあたたかみを帯びてゆく声色だった。ナランチャは胸を撫で下ろしながら顔を上げると、そこにはいつもの優しいブチャラティが居る。もう一度小さく、ごめんとぽつり。
「適材適所だ。分かるか?」
「てきざい、なに?」
「フーゴはフーゴのできることをやる。ナランチャはナランチャのできることをやる、って意味だ」
「……へえ。てきざい」
「適所」
「てきしょ」
そうしてナランチャはしっかり落とし込むように再度「適材適所」を繰り返した。それぞれが、それぞれに合ったことをやる、という意味。ナランチャはまた一つ覚えた。なるほどな、とも思う。
広くを見て、深くを知って、きちんと理解するということ。人と人との関わり合いの出来高がそのまま街への貢献へと繋がり、結果として組織やブチャラティ、ひいては己のためになるのだということ。ナランチャはグラスを持ちあげてクランベリージュースを飲んだ。酸味が頭を冷やしてゆく。
「今お前はできることを増やしている途中なんだ。フーゴにも同じような頃はあったよ」
「……フーゴにも?」
ブチャラティは「ああ」と頷いた。
「だが焦るなと言ったって焦っちまうんだろう? そんなお前のひたむきさには誰にも敵わないさ」
期待してんだぜ、と言ってやれば今まで影っていたナランチャの顔に赤みがさした。心配しなくったって、ブチャラティはナランチャを認めている。ブチャラティは素直な少年のこころにいつも感心している。彼のような正直さだって、潜在している勇気だって、自分には持ちえないものだったからだ。
組織に入ったナランチャを、自分のチームに引き込む形で獲得できてよかったなあと、改めて思う。
「なあブチャラティ」
「ん?」
「そのさ、カジノのオーナーの息子さ」
手の中のグラスをまわしながら、ナランチャはなんだか照れくさそうだ。先ほどと同じに、ブチャラティはナランチャが語りはじめるまで黙って待った。アイスティーは空っぽだったけれど、口をぱくぱくさせながら言い淀む彼を、ほほえましい気持ちのまま眺める。
「足、大丈夫なの?」
真剣な面持ちだった。その真剣さに笑ってしまうのは流石にヘソを曲げてしまいそうだったけれど、ブチャラティは我慢ができなかった。あれだけ苦手な「まじめな話」をしている間にもそれが気になっていたというのだろうか。やっぱり彼の素直なところが好きだった。笑われて「なんだよ!」と顔を真っ赤にするのも面白い。
取り急ぎ、お前を笑ったんじゃあないよと告げれば「じゃあ、なに」とふてくされる。
「お前はほんとうに優しいなあ」
「はあ? 優しいのはアンタの方だぜブチャラティ。俺みたいなのを助けて飯食わせて病院にまで連れてってさ」
ブチャラティは「そういうことじゃないよ」と言おうとしたけれど、やめておいた。それよりも彼の知りたがっていることを教えてやらなくちゃならない。
「足を患っているのは本当だが、今はリハビリ中だ。じき良くなる」
ディーラーをやっているのも治療の一環だ、と付け加えればナランチャは心底ほっとしたように「よかったあ」と肩の力を抜いていた。
それからいつものにこにこ顔でナランチャはブチャラティの名を呼ぶ。
「これからまた仕事?」
「ああそうだ。そろそろ行かなきゃな」
「ついてっていい?」
「もちろん」
椅子から腰をあげて給仕長へ片手をあげて挨拶をする。「グラッツェ」と言えばナランチャも続いた。給仕長は浅く頭をさげながら「またおいでください」と二人を見送る。
もう陽も傾いていて街路に並ぶいくつもの街灯の影をぐんと伸ばしていた。夏間近のネアポリスの風はしっとりしていておだやかである。二人分の皮靴の音がこんこん、として赤煉瓦を行った。
ナランチャは、ブチャラティのとなりを満足そうに歩いている。