三崎透の独白
立花さんは人間としてとても優秀だ。立花さんの下で四年働いている俺はよく知っている。思考を読みづらいというのは長所でもあるが、短所でもある。俺も昔からそれで損をしてきた。立花さんも恋愛においてはそれで失敗したことが何度かあるようで、恋愛面で考えていることが分かりづらいのはなかなか面倒だ。でも最近の立花さんは分かりやすい。
「三崎ー、あそこの女社長すぐ枕営業しろって言ってくるから気を付けなね」
「はい」
「俺らは風俗やってんじゃないのになー。若い男の体が欲しいからって、犯罪だわ」
心底嫌そうに言いながらエレベーターに乗る。外回りから帰ってきて、立花さんに昼飯を奢ってもらって。エレベーターに乗るとチラチラと立花さんに送られる女子の視線。確かに立花さんは男の俺から見てもかっこいい。
「そういえば三崎、彼女元気?」
「えっ」
「誰だっけ、ほら、静菜ちゃん?」
開いた口が塞がらなかった。俺は会社で彼女がいることを明かしたことはない。ゲイだという噂があって女は恋愛対象じゃないと思われているほうが楽だからだ。彼女がいると言っても言い寄ってくる女はいる。二番目でもいいとかって。立花さんだって今実は大変なことになっているのを俺は知っている。
「な、なんで、」
「静菜ちゃんから電話かかってきた時だけ甘い顔になるから。自覚なし?三崎もまだまだ青いね」
ふふんと笑った立花さんが先にエレベーターを降りる。でも、さっきも言ったけど最近の立花さんは分かりやすいのだ。
「大丈夫なんですか、間宮に結婚迫られてるんでしょ」
「……」
うわ、すっげー嫌そうな顔。
「早坂さんの耳に入ったら大変なんじゃ」
「……」
うわ、目輝いた。早坂さんと恋人同士になって以来、立花さんの体からは幸せオーラのようなものが出ている。中学生の女子か、と突っ込みたくなるほど。
「うん、まあちょっと泣いてた」
「そうなんですか」
「でももう二回も後悔したんだ。俺が三回も失敗するわけないでしょ」
「そうですね」
「大丈夫。ヨリが絶対俺から離れられないようにしたから」
「え?」
「俺ちょっと専務に会ってくるね」
ヒラヒラと手を振って立花さんが去って行く。離れられないように?何したんだろう。……つーか今、専務に会いに行くって言った?
立花さんは人間としてとても優秀だ。きっと専務も早坂さんも上手く宥めて、自分の思い通りにするんだろう。