君だけ

 お店に新しいバイトの女の子が入ってきた。大学一回生で、滝沢や私のサークルの後輩だ。中島くんの友達らしい。私は喋ったことないけど。とても美人でスタイルもよくて、大学でも有名な子だ。

「翔さーん、これ分からないんですけどー」

 そして、あからさまに翔さん狙いだ。他の人と話す時より高くなる声、ペタペタと翔さんの腕にボディータッチ。ここまで分かりやすいのも珍しい。

「ああ、それならすずちゃんが知ってるからすずちゃんに聞いて」

 翔さんはふわりと笑ってハッキリと言い切った。新しいバイトの子、亜里沙ちゃんは「えー、翔さんがいいですー」と尚も食い下がる。タフだな、と思っていると翔さんはまたふわりと笑って。

「いいよ、教えてあげる。その代わりもう俺に触らないでね」

 翔さんは前から女の子に優しい。でも最近、自分に好意を向ける人に他の人よりしっかりと壁を作るようになった。

「何か余裕だなお前」

 二人の様子を私の後ろで見守っていた滝沢が苦笑いしながら言って来た。うん、確かに前の私なら不安になってたかも……?

***

「すずちゃん、愛してる。ほんとに、愛しすぎて壊しちゃいそう」
「っ、かけるさ、」

 翔さんの熱い舌が首筋を這う。片方の手でしっかり腰を抱かれ、もう片方の手はカウンターに突いて、翔さんは私を逃がさないようにした。ハァ、と耳元で熱い吐息が聞こえてふるりと体を震わせる。
 確かに、最近私は翔さんがどんなに綺麗な女の人に言い寄られても不安にならない。それは多分、慣れてきたのもあるだろうけれどきっと。

「すずちゃん、すずちゃん、可愛い。愛してる。俺にはすずちゃんだけ。すずちゃんの全部が可愛い」

 こうやって、翔さんが愛情を伝えてくれるからだ。

「わ、たしも大好き、です、でも、お店ではやめませんか……?」

 お客さんも、バイトの人たちも皆帰って、二人きりになったお店。翔さんは私を抱き締め、キスをしながら服の中に手を入れてきた。

「ずっとすずちゃんに触れたくて我慢してたから。もう家まで我慢できない」
「っ、でも、いつも働いてるところでするのは……っ」
「思い出して濡れちゃったら困る?」
「……!っ、意地悪っ」
「ああ、もう本当に可愛い。もう無理。我慢できない。すずちゃん、後ろ向いて」

 余裕のない声でそう言って、翔さんは私のお尻を撫でた。

「っ、あ……っ」
「すずちゃん、愛してる」

 服は着たまま、ブラを引っ張り降ろされる。勃起し始めた乳首に服が擦れて体が跳ねた。翔さんの大きな手が胸を包み、やんわりと揉まれる。翔さんは後ろから私を抱き締め首筋に舌を這わせた。

「ほら、もうこんなになってるのに我慢しろって言うの?すずちゃんのほうが意地悪だよ」

 服越しでも分かるほど熱くなった翔さんのそれが、お尻に押し当てられる。恥ずかしくて真っ赤になった私の耳元で、翔さんはまた可愛いと囁いた。翔さんはスカートを捲り下着を一気に足首の辺りまで下した。そして太ももの間にそれを挟む。中心を擦られると、ぬるぬると滑りやすくなって。翔さんは腰を振った。

「エッチな子。嫌だって言ってたのにこんなに濡らして」
「っ、嫌、言わないで、」
「挿れなくても気持ちいいなら、今日はこれで終わる?」

 固いそれが気持ちいい突起に当たって、はしたない声を上げてしまう。服の上から擦るように乳首を弾かれ、クルクルと指で弄られ、私は唇を噛んだ。

「ほんとぬるぬる。気持ちいい」

 翔さんはわざと耳に息を吹きかけるように囁く。ゾクゾクと背中を快感が駆け上って体が震える。いやらしい音が暗い店内に響いて、私は絶頂の予感に甘い声を上げかけた。
 ……その時。ガチャッとお店のドアが開く音がした。その瞬間翔さんはカウンターの下に潜るように隠れ、私の体を抱き締める。熱くなっていた体が一気に冷えて私は息を止めた。

「翔さーん?」

 それは亜里沙ちゃんの声だった。暗いからきっと気付かれることはないだろう。でもすぐ近くで彼女の足音が聞こえて、私は翔さんの服をきゅっと掴んだ。

「……すずちゃん」

 耳元で翔さんが小声で囁く。嫌な予感がした時にはもう遅かった。

「声、出しちゃダメだよ?」

 次の瞬間、翔さんのそれが一気に入ってきた。咄嗟に手を口に当てた自分を褒めたい。

「はぁ、気持ちい。すごく締まる」

 わざとそんなことを言って羞恥心を煽る翔さんは本当に意地悪だと思う。腰を掴まれ、翔さんの太ももの上に座るような体勢で腰を揺らされ。私は口に手を当てて必死で耐えた。
 亜里沙ちゃんは翔さんを探しているようで、更衣室のほうに行ってみたりキッチンを覗き込んだり。早く諦めて、そう願うけれど亜里沙ちゃんはやっぱりタフだった。

「すずちゃん、気持ちいい?ね、気持ちいいなら俺の手握って?」

 腰に置かれた翔さんの手を、素直に握る。やっぱり私の体は翔さんに調教されてしまっていると、実感した。

「エッチな子。ほんと可愛い。すずちゃんは俺とエッチするの大好きだもんね?」

 翔さんは下から突き上げる動きを速くした。本当に意地悪なんだから。でも、気持ちいい。私達のいるカウンターのすぐ向こう側に、亜里沙ちゃんが座る音がした。嘘でしょ?青ざめた私と対照的に、翔さんは楽しそうに笑った。

「すずちゃんの可愛い声聞けないの残念だけど、声我慢してるすずちゃんもすごく興奮するね」
「っ、ふ、ぅ」
「今度どっか外でしてみる?」

 必死で首を横に振る。でも翔さんは甘く微笑むだけでやらないとは言わなかった。……嘘でしょ?翔さんは私をその場に寝かせ、上から見下す。暗い中、ギラギラと光る目が獲物を見るように私を映して。

「イッていいよ。でも、声は出しちゃダメだけど」

 ズン、と一番奥まで突かれて、あまりの快感に目の前がチカチカとなる。口に手を押し当て、激しい動きに耐える。そんな私を見下して、翔さんは舌なめずりをした。いつも色っぽいけど、こういう時の翔さんの色気は異常だ。翔さんに知り尽くされた体は簡単に熱くなって、昇り詰めて。唇を噛んで、必死で声を抑えて。私はイッてしまった。ガクガクと震える体を、翔さんは尚も揺さぶる。

「すずちゃん、俺もイキそ……」

 何も考えられないくらい気持ちいいのはいつものこと。でも今日は、すぐそばに人がいる。私は翔さんの手を握った。その瞬間、ギラギラとしていた目が途端に甘く優しいものに変わる。

「……誰に何言われたって、俺が好きなのはすずちゃんだけだからね」
「っ、かけるさ、」
「安心して俺のそばにいて?絶対に君を泣かせたりしないから」

 ぎゅっと抱き締められて、私は翔さんの背中に手を回す。気持ちいい。幸せ。翔さんに抱かれる度、心の中に降り積もる気持ち。愛しくて切なくて、苦しいほどに胸を締め付ける。

「……イくよ」

 余裕のない声が耳元で聞こえた後、一番奥に欲望を注ぎ込まれるのを感じた。
 しばらく抱き合ったままでいて、怠い体を起こすともう亜里沙ちゃんはいなかった。翔さんは私の体を丁寧に拭き、綺麗にしてくれる。そして服を着て手を繋いでお店を出た。

「もうバイト雇うのやめようかな。面倒だね。でもすずちゃんが就職しちゃうとバイト彩香ちゃんしかいなくなっちゃうしなぁ」
「私なら大丈夫ですよ?女の子に迫られても、翔さんがフラフラしないのは分かってますから」

 微笑んでそう言うと、翔さんは目を瞬かせた後ふっと笑った。

「うん。絶対フラフラしない。でも俺が嫌なんだよね。最近すずちゃん以外の女の子に触られると嫌悪感が酷くてさ」
「そうなんですか……」
「すずちゃんにはずっと触ってたいって思うのにな」

 ふわりと微笑んで、翔さんは道の真ん中で私にキスをする。頭を撫でられると誰かに見られるとか、そんなことも気にならなくなるから不思議。

「愛してる、すずちゃん。早く夫婦になりたいね」

 私だけをそうやって甘い瞳で見つめてくれることに、私は信じられないほどの幸せを感じている。そう、翔さんに触れられるのは私だけだから。

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