滝沢智輝の独白

 みんな勘違いしているようだからハッキリ言う。俺は藤堂すずを好きなわけではない。俺のタイプはもっと色っぽくて余裕のある年上の女だ。

「でもさー、タイプの人を好きになるとは限らないじゃん?」

 槙原がニヤニヤしながら言った。まぁ、確かにそうだけど。藤堂はない。

「でもライバルが翔さんだからなー。認めたくない気持ちは分かる。だってあの人には人間としても男としても雄としても勝てる気がしねーもん」

 メグが紅茶を飲みながら言う。俺もその意見には同意する。翔さんには絶対勝てない。いや、だから。

「俺、藤堂のこと好きじゃねーって」

 カウンターのところで微笑み合っている二人を横目で見る。特に何も思わない。藤堂嬉しそうだなー、とか翔さん今日もかっこいいなー、とか。それくらい。もし俺が藤堂を好きなら、あんな場面を見るのも辛いに決まってる。

「でもタッキー突然すずに優しくなったじゃん?それは何で?」

 槙原の言葉に、過去に思考を巡らせる。俺が藤堂に優しくなった?うん、まぁ確かにアイツに突っかかるのはやめたけど。

「別に優しくしてるつもりはねーけど」
「無意識かー。厄介だね」

 優しい?俺藤堂に優しくしてんのか?首を傾げる俺に、二人は苦笑いする。そして、メグが言った。

「自分の気持ちに気付かないフリすんのはいいけどさ。そのうち息も出来なくなるかもよ?」

 と。


 俺が藤堂を好き?俺が藤堂に優しくなった?不可解なことばかり言われ、それで頭がいっぱいになる。うんうんと頭を悩ませながら大学の中庭を歩いていると、胸に何かがぶつかってきた。いてっ、と小さく呟いて下を見ると、ぶつかってきたのは女だった。しかも。

「あっ、ごめんな……、て、滝沢!ごめん!前見てなかった!」

 藤堂だった。藤堂はリクルートスーツ姿で書類を確認しながら歩いていたらしい。へー、聞いてはいたけど本当に就活してるんだな。翔さんのことだから俺に永久就職すればいいとか言いそうだと思ったけど。

「別に。忙しそうだな」
「まーね。あ、滝沢は進学だっけ」
「おー。院だ」

 すごいね、と無邪気に笑う藤堂に、思わず頬が緩む。

「翔さんと結婚するんだろ?別に就職しなくてよくね?」
「うーん。でも翔さん何も言わないんだ。私が就活してるの。だから結婚はまだ先だと思ってるのかもしれない。それに、ちゃんと就職して世界を広げたい」

 ふーん、と言いながら、藤堂の横顔を見つめていた。ほんと、弱いのか強いのかネガティブなのかポジティブなのか分かんねー奴。

「……なぁ、もしもな。もしも翔さんに他に好きな女ができて、もうお前の想いは叶わないとする。お前はどうする?」

 どうしてこんなことを聞いたのか、自分でもよく分からない。まさか「俺のところ来いよ」なんて思っているわけでももちろんない。翔さんがコイツを手放すわけないし、コイツも翔さんから離れることなどしないだろう。二人はきっと、地球よりも強い磁石のようなもので惹かれ合っている。どれだけ想い合っているかなんて、見ていたらすぐに分かる。
 藤堂は想像しただけで悲しそうな顔をするかと思いきや、案外穏やかな顔をしていた。予想外の反応ばかりする女だ。

「多分、海外に行く。二度と翔さんと会わないところに行く。翔さんの幸せの邪魔をしないように」
「……」
「翔さんには幸せでいてほしいじゃない?」

 微笑んだ藤堂の顔はそれでも幸せそうだった。自分が失恋に打ちひしがれて壊れそうでも、それでも翔さんの幸せを思うと幸せってことか?……よく分かんねー。首を傾げたまま、俺は藤堂と別れた。俺なら好きな女は、絶対に自分の手で幸せにしたいと思うけどな。
 その日の夜、たまたま翔さんと二人になった。メグと藤堂はバイトに来ていなくて、悠介さんは彩香ちゃんを送っていった。俺は昼間藤堂にぶつけた質問を翔さんにもぶつけてみた。

「うーん、そうだな。もう二度とすずちゃんに会わないところに行くだろうね。例えば海外とか」

 まさかの同じ答えに目を丸くした。俺の反応に少し笑って、翔さんは続ける。

「すずちゃんが他の人を好きになるのも他の人のものになるのも悲しいけど、でもすずちゃんの幸せが俺じゃなくて他の人のそばにあるなら仕方ないよね」
「……」
「すずちゃんには幸せになってほしいから」
「どうして、そこまで藤堂が好きなんですか?」

 素朴な疑問だ。別に藤堂を馬鹿にしているわけでも、他にもっといい女がいるだろうとか、そんな風に思っているわけでもない。ただ、純粋にそこまで好きになる理由は何だろうと思った。
 翔さんは、微笑んだ。男さえも魅了するような、綺麗な笑みだった。

「智輝にはその理由、分かるでしょ」

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