甘い夜

 初めて体を重ねた日。包み込むように、私を縛り付けるように。翔さんは私を抱いた。

「んっ、ん」

 何度もしてきたキスが、今日はいつもより熱い。触れるだけのキスを繰り返しているのに熱が違う。

「うっ、か、翔さん、あの、」
「ん?」

 私の声に唇は外してくれたものの、至近距離にいる翔さん。長い睫毛の奥の色素の薄い瞳が優しく私を見つめている。ソファーに押し倒された状態で、腰をしっかり抱かれていて。心臓が破裂しそう。

「わ、たし、実は……えっちするの、あまり好きじゃないんです」

 今まで、何回かそういう状況になったことがある。でも一度も気持ちいいと思えなかった。痛いだけであまり濡れもしなかった。

「……そう。それで男に酷いこと言われたの?」
「……っ、はい……」

 翔さんは今まで何人もの女の人とそういう経験があるんだろうし。私みたいなあまり感じられない子として気持ちいいのかなって……。翔さんに幻滅されるのが怖い。

「……すずちゃん、こっち見て」

 でも、翔さんの声は優しかった。思わず見た瞳も、さっきと変わらず優しい。

「すずちゃん、多分俺が一番、君を上手に愛せると思うよ」
「っ、え……?」
「今まで君を抱いた男の中で、一番君を好きな自信がある」
「か、ける、さん……」
「俺を信じて。俺に身を委ねて。俺なら君を幸せにできる」

 ふっと笑った翔さんが色っぽすぎて思わず目を閉じた。 ちゅ、といつもと同じ優しいキスの後、柔らかい舌が唇をなぞる。そして少し開いた隙間から口内に入ってきた。アルコールの味がする。でも酔いそうなのはそれだけじゃない。歯列をなぞって舌を吸われて。熱い吐息は翔さんの口の中に消えていく。頭がふわふわとして必死で翔さんにしがみついた。そうじゃないと意識が飛びそうだった。

「……エッチな顔」

 唇を離した翔さんが私を見て微笑む。恥ずかしくて肩に顔を埋めれば、そのまま抱き上げられた。ひっ、と驚いて出した声も、翔さんの唇に呑み込まれる。

「優しくしたいからベッドに行こうか」

 コツンとぶつかった額が、熱くて気持ち良い。
 翔さんはベッドに私を下ろすと、ゆっくりと私の服を脱がせていった。もちろん恥ずかしいし泣きそうになったけれど、それより翔さんの美しい仕草を止めるのが嫌だった。私を下着だけにして、翔さんも上半身の服を脱ぐ。覆い被さりキスをくれる翔さんの体温は熱く、素肌は気持ち良い。おずおずと翔さんの背中に手を回せば、翔さんは嬉しそうに笑った。

「……すずちゃん、愛されるってどういうことか教えてあげる」

 翔さんは指と舌で、私の体を丁寧に解していった。唇、鼻、耳、首筋、鎖骨、胸、お腹、脚。そして、背中。うつ伏せになってシーツを掴めば、その手に翔さんの大きな手が重なった。

「すずちゃんの体、熱いね」

 背中に何度もキスをしながら、翔さんは耳元で囁く。ピクンと反応した体が恥ずかしくて。枕に顔を埋めたらまるで翔さんに包まれているようで更に恥ずかしくなった。

「すずちゃん、好きだよ」

 そう言いながら、翔さんは胸に手を当てて。そしてブラをずり下げる。プルンと飛び出した胸を温かい手が包んだ。

「うっ、あ……」

 甘い声を抑える隙も与えてくれない。揉まれ、先端を摘まれて。体はビクビクと跳ねるし更にそこは敏感になっていく。
 翔さんに仰向けにされた時。私は恥ずかしすぎて顔を手で隠していた。翔さんがクスクスと笑っている。

「すずちゃん、顔を見せて」
「うっ、やだ、」
「お願い。キスしたいから」

 翔さんはズルい。そんな甘い声と優しい手に私が勝てるはずないのに。おずおずと手を外せば、翔さんはニコニコとしていて、でも酔いそうなほどのフェロモンを発しながら私を見つめていた。

「すずちゃん、可愛い」
「っ、か、翔さんは、かっこいいです……」
「そう?ありがとう。多分すずちゃんにドキドキしてるからだね」

 いちいち甘い言葉でドキドキさせないでほしい。翔さんはまた身体中にキスを落としていって。そして胸に顔を埋めた。

「ひゃあ……!」

 ぺろりと先端を舐められて、変な声が出た。くるくると円を描くように赤い舌がそこに触れる光景は扇情的で。無意識のうちにそこに見惚れていて、翔さんは更にえっちな舐め方をする。ツン、ツン、とそこに舌を突き立ててみたり、見せつけるように吸い付いてみたり。気持ちよくて、ドキドキして、苦しい。

「すずちゃん、見てて」

 胸から顔を離した翔さんは、私の下半身に移動する。そしてゆっくりと下着を脱がせていった。大きく開かれた脚。薄暗い中でも、きっと翔さんからそこは丸見えだ。

「すずちゃんは上手に愛されたことがなかっただけ」
「え……」
「だっていっぱい濡れてるし、ヒクヒクしててすごくエッチだよ」
「っ、そ、そんな恥ずかしいこと、」
「ほら、またトロッて溢れてきた」

 翔さんが舌舐めずりをした。
 翔さんは普段から色気を垂れ流している人だと思う。髪を掻き上げる仕草だって、カップを持つ仕草だって、果ては鼻を掻く仕草だって。翔さんの仕草はいちいち色っぽくて目を逸らせないのに。私の脚の間に顔を埋めて私を見上げる顔は、その比じゃない。皮膚を心臓が押し上げるように激しく動く。翔さんは、そっと中心に舌を伸ばした。

「んんっ」

 電流が走ったみたいな、激しい刺激が体を駆け巡る。シーツを必死で握っていないと全部持っていかれそうだった。翔さんは片方の手で太ももを掴み、もう片方の手を胸にやる。乳首を弾かれながらそこを舐められると、苦しいほどに気持ちよかった。どうしようもない快感に自分の人差し指を噛む。痛みですら今の私には快感で。ちゅっと吸われた瞬間、ビクンビクンと体が跳ねて頭の中が真っ白になった。
 翔さんが私の横に寝転ぶ。ハァハァと肩で息をする私の頬をそっと撫でて、噛んでいた人差し指を口に含んだ。

「歯形がついてる」

 そして悲しそうな顔で、労わるようにそこを舐める。その光景すら卑猥で目が逸らせない。

「すずちゃんの体に傷が付くのは嫌だな」

 ちゅ、ちゅ、と顔中に優しいキスが降ってくる。呼吸が落ち着いてきた頃、翔さんはさっきまで顔を埋めていた中心に指を這わせた。

「んっ」

 手は翔さんに握られているから、唇を噛む。でもすぐに翔さんの長い指が口の中に入ってきた。

「噛むなら俺の指を噛んで」

 翔さんの指が、中に入ってくる。ぐるぐると掻きまわすように動いたり、抜き差しされたり。口に入れられた指も同じ動きをして、両方で攻められているような気になった。

「本当にエッチな顔」

 翔さんがふっと笑う。どんな顔をしているんだろう。怖い、でも、気持ちよくてどうにもできない。頭がふわふわとして、夢見心地のような。でも体を突き抜ける激しい快感は生々しくて。翔さんの長い指がある一点を突いた時。私の体は大袈裟なほどビクンと跳ねた。

「っ、そこ、やだ……っ」
「ここ?」

 翔さんは優しくて甘い瞳で私を見つめながら、そこを容赦なく攻め立てる。ぐちゅぐちゅと恥ずかしい音が聞こえる。必死で翔さんにしがみついて、嫌々と首を振っても翔さんは止めてくれなかった。

「お、お願い、怖い……っ」
「大丈夫。俺を信じて」

 翔さんが甘く微笑む。次の瞬間、ぷしゅっとそこから何かが飛び出した。あまりの快感に膝がガクガクとなる。唇も震えて、体が力む。ぴゅっ、ぴゅっ、と止まらないそれは、太ももやお尻を濡らしていった。

「うっ、こわ、い」

 気持ちよすぎて怖いなんて。不感症なのかもしれないと思っていたから、そんなこと一生思わないと思っていた。翔さんは自分でも知らなかった体や心を次々暴いていってしまう。離れられなくなりそうで、怖い。
 翔さんは泣く私の顔中にまた何度もキスを降らせて。落ち着くまでぎゅっと抱き締めてくれていた。

「すずちゃん、今日はここでやめようか」
「え……?」
「君に負担をかけたくない」

 翔さんはそう言って優しく笑う。でも、一瞬触れたそこは熱く固くなっていて。私は首を横に振った。

「いや、です」
「え?」
「翔さんと一緒に、気持ちよくなりたいです……」

 怖い、でも。それより翔さんと一つになりたい。翔さんは苦笑いして、「すずちゃんは可愛いね」と言った。そして体を起こす。ジーンズを脱ぐと、下着を押し上げるそれの形が分かる。恥ずかしくて目を逸らしたら、下着から取り出されたそれに手を持って行かれた。

「……熱い?」

 翔さんに手を握られて、それを包むように持たされ扱くように手を上下にする。熱くて、固い。手を動かす度にそれはビクリと震えて、いやらしい。翔さんはどこからか避妊具を持ってきて、それを装着した。

「ゆっくり挿れるから、痛かったら言ってね」

 翔さんが太ももを掴む。そして私の中心にそれを擦りつけた。

「……なるべく、優しくする」

 熱い息を吐きながら、翔さんはそれを私のなかに埋めていった。 肉を割って奥まで侵入してくるそれに、私は背を仰け反らせた。また指を噛もうとすると、翔さんの指が入ってくる。噛んじゃダメ、そう思うのに無理だった。ゆっくりと、でも確実に翔さんが私を侵していく。はぁ、と甘い吐息が耳元で聞こえた。

「っ、はぁ、気持ちいい……」

 掠れた声で、翔さんが呟く。それだけで中の翔さんを締め付けてしまったような気がする。翔さんがピクンと動いた。

「すずちゃん、痛くない?」

 声も出せなくて、私は何度も頷いた。翔さんが、それを一度ギリギリまで抜いて、また挿し入れた。ビクビクと体が揺れる。体を起こした翔さんは、甘い瞳で私を見下した。

「ごめん、優しくできないかも」

 ふっと笑って前髪を掻き上げたのを見たのが最後、翔さんの動きに翻弄されて、私は目を瞑ったまま翔さんの指を噛んだ。 何度果てたか分からない。翔さんは最後まで優しかった、でも私が何度果てても決して私の体を離さなかった。必ずどこかを掴まれたまま、私はまた頭を真っ白にする。

「っ、すずちゃん、俺も、イく……っ」

 掠れた声。甘い吐息が口内を犯す。私の声は翔さんの口の中に消えていって。唇を重ねたまま、私の中で翔さんのそれが震えるのを感じた。
 ハァハァと肩で息をする私の体を綺麗にして、翔さんは私の隣に寝転んだ。

「……好きだよ、すずちゃん」

 額に唇が触れる。それを最後に、私は意識を手放した。
 甘い夜。一生忘れられない夜。そんな夜を過ごしてしまったら、もう不安で仕方なくて。忘れられないからこそ、これ以上溺れるのが怖かった。

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