思春期の王子様のお話

 隣で眠る彼女の口が開いている。最高に可愛い。今の彼女に色気を感じる要素はないし、愛玩動物を愛でるみたいな気持ちでいるが、正直絶好のチャンスだと思っている。触れたくて、なのにどうしても触れられなかった高校生の頃のウブな俺が頭の中で囁く。

彼女は熟睡しているのだから気付かれはしない

 と。悪魔か。

 彼女と初めて出会ったのは高校三年生の夏前だった。その頃の俺は持っていないものなどないのに何故か心が渇ききっていて、満たされない思いを抱えていた。思春期にはよくあることなのかもしれない。女の子にはモテたし手を出そうと思えば出せたのだろうけれど、寄ってくる女の子に欲情できる気がしなかった。可愛いなと思う子はいても、それより後々の面倒ごとを考えるとげんなりした。
 ただ思春期ゆえに性欲というものはたっぷりと、それはもう溢れんばかりに有り余っていて、セックスした後に相手の記憶をなくすような方法はないものかと考えた。今思うとクズの極みだ。
 図書室に行って相手の記憶を改ざんする方法が載っている本を探した。もちろんあるはずがない。もしかしたら超大型の書店などに行けば、怪しげなものがあったかもしれないが俺が行ったのは高校の図書室。我ながら色んな意味でアホである。
 そこで見つけたのが彼女だった。彼女はキラキラとした目で本に目を落としていた。俺が質問をすると、そのキラキラが消えた。興味なさそうな少し冷めた目で俺を見て質問に答えてくれた。少女漫画なんかでよくある『俺に興味持たないなんて……ふーん、面白い子』なんて思考にはならなかった。そんなに本が好きなのかと単純に思っただけだった。
 俺はアホみたいな思春期の思考を間違った方向に拗らせた。心理学の本を読んでいるうちに心理学に夢中になったのだ。人間を操ることなんてもちろんできない。でも、周りの人間が考えていることは少し分かった。
 俺に寄ってくる女の子は俺の中身にはあまり興味がない。ニコニコしながら本当はムラムラしていることにも全く気付かない。俺は『みんなの幸人様』。そのくせ俺の見た目と親のステイタスだけを見て虎視眈々と彼女の座を狙っている女の子たちは獰猛な肉食獣そのものだった。
 俺はそんな彼女たちに怯えている自分がいることに気付いた。彼女たちと離れたいと思った。でも嫌われる勇気はなかった。

「ごめん、ちょっと避難させて」

 初めて彼女にそうお願いした日、彼女は前話しかけた時みたいに冷めた目で俺を見上げた。でもすぐに状況を察したのか足元を空けてくれた。俺はそこに入り込んだ。正直窮屈だった。暗いし。でも。

「……」

 目の前に彼女の脚があった。少し動けば触れられる距離だ。あれ、ヤバい、俺、勃起しそう。白い肌、陶器のような見た目、いい匂い。全てが思春期の溜まりに溜まった性欲を刺激した。その日の夜、彼女の脚だけを思い出して抜いた。
 次の日から彼女の足元に行く理由が増えた。周りの女の子たちから隠れること、そして彼女の脚を見つめること。彼女はたまに様子を窺ってきたから、本を読んでいるフリをしていた。
 名前もクラスも調べた。彼女のことを知りたいと思った。でも彼女も周りの女の子たちと同じように、俺の見た目と親のステイタスだけにしか興味がない子だったらどうしよう。そう思うと動くに動けなかった。でも彼女は全く俺に興味がなかった。それどころか年上の彼氏までいた(それはお兄さんだったと後々分かるのだが)。その興味のなさに更に焦らされたような気分になり、彼女の脚のせいで集中できなかった読書に久しぶりに熱中した。でも彼氏と別れさせるように仕向ける方法は見つけても行動する勇気がなかった。
 卒業まで何もできないまま。毎日毎日彼女の脚で抜いていたにも関わらず、いやだからか、彼女に会うと緊張した。親の稼いだ金なのに、コンビニで会う度彼女に奢ってあげようとした。結局は俺も周りの女の子と同じ。俺の武器は親のステイタスしかないのだと気付いた。
 卒業式、俺に何も言わず帰って行く彼女をただ見つめていた。もちろん、彼女にとって俺は知り合い以下なのだろう。もう会うことはできないだろう。なのに俺は、彼女を追いかけることなどできなかったのである。俺には彼女を振り向かせる武器などないのだから。

 今は違う。きっと。俺は自分の力で掴み取った。地位も金も、自分のもの。今の俺にはあの頃の俺にはない『自信』がある。
 なのにどうして。結局やっていることは同じだ。

「っ、はぁ、は……」

 俺がいるのは彼女の足元。ロールアップのジーンズから覗くのは白くてスベスベした陶器のような脚。そして、いい匂い。忘れられなかった女の子が目の前で無防備に眠っているのだ。勃起しない男なんていない。勃起していることが彼女にバレて流されてくれやしないかと思ったが、今更焦ることもない。何せ俺は6年前から彼女の脚で勃起しているのだから。
 彼女の脚に触れるか触れないかの距離まで近付き、性器を扱く。きっと荒い息は脚に当たっているだろうが彼女は熟睡している。はあ、触れたい。舐めたい。脚だけじゃなく、彼女の全身をひたすらペロペロしたい。ガチガチに勃起した性器から先走りが溢れる。クチュクチュといやらしい音を立てながら、ペースは上がっていく。

 ちなみに俺は酒で潰れたことはない。ザルだ。彼女もザルだったのは誤算だったが、騙されやすくお人好しなことを知れたのは収穫だった。本当に、無防備でお馬鹿で可愛い。

「あっ、は……」

 彼女の脚を見ながらティッシュに大量の精液を吐き出した。
 あの頃から変わった?……嘘だ。俺は相変わらず、彼女の前では思春期のままだ。
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