奈々美ちゃんが冷たいお話
その日の夜、奈々美ちゃんに電話をしたら出なかった。何か出られない用事があるのだろう、そう思って自宅に帰ったが、嫌な予感はしていたのだ。「昨日電話に出てくれなかった」
昨日あれほど相川に奈々美ちゃんのことを言ったのを後悔したくせに、結局相談してしまう俺は相当弱っているらしい。
そう、昨日は3回電話をかけたが1度も出てくれなかった。前に電話に出ないことはあったが、その時は友達といるから出られないとメールをくれたのに。昨日はメールもなかった。
「お前のこと面倒くさくなったんじゃねーの」
やっぱりコイツに言ったのは間違いだった。いつものように俺をからかう時にケラケラと笑う相川を見て本当に後悔した。
へばりついてくる相川を適当にあしらいながらコンビニに向かう。奈々美ちゃんに会いに行くのにこんなに気が重いのは初めてだ。
昨日はきっと携帯をどこかに忘れただとか実家に用事があって帰っていただとか、何か理由があったのだ。そう自分に言い聞かせてコンビニに入る。……と。
「奈々美ちゃん」
「おはようございます」
相川がまた軽く声をかける。が、奈々美ちゃんは全く俺のほうを見ない。おかしい。やっぱり何かおかしい。
相川はそんなことは気にもせず商品を物色し始める。いや、違う。彼女の態度がおかしいことをいつもの軽い調子で突っ込んでくれ。頼む。俺に直接聞く勇気はない。
「……相川」
「んー?」
「……何でもない」
やっぱり言えない。聞けない。ウジウジと悩んでいるうちにコンビニでの用事は終わってしまう。レジは奈々美ちゃんではなく例の「田島くん」だった。
「ありがとうございましたー」
会計が終わってもなかなか動かない俺を見て、少し間を置いて田島くんが気まずそうに言った。
「結城さんに用事っすか?」
「え」
「呼びます?」
「ああ、大丈夫だよ」
言葉遣いは気に入らないが、田島くんはなかなかいい奴だったようだ。俺が奈々美ちゃんを気にしているのに気付いたらしい。
コンビニを出る前に見た奈々美ちゃんはやっぱり俺のほうを見なかった。
その日の夜、いつもより早く仕事を終えた俺はまた奈々美ちゃんに電話をかけた。だが繋がらない。でも俺には最終手段がある。そう、彼女の家を知っているのだ。
彼女のアパートに行き、インターホンを鳴らす。さすがに彼女はドアを開けてくれた。
「ケーキ買ってきたんだけど……、食べる?」
奈々美ちゃんは最初驚いたのか目を丸くして俺を見ていたが、結局あまり目を合わせてくれず。それでも優しい彼女に俺を追い返すという選択肢はなかったのだろう、家の中に入れてくれた。
だが気まずい。奈々美ちゃんからは俺に対する拒否反応みたいなものが出ていて、できたら早く帰ってほしいというような雰囲気。
でも、ダメだ。ここで諦めたら俺はもうずっと、彼女に会えない気がする。そう、俺はもう、あの日の後悔をしたくないのだ。もう一度彼女に会えた奇跡を、大切にしたいのだ。
「あの、さ」
緊張して喉が乾く。俺は彼女が淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。
「俺、なんかした?」
よくやった俺。ちゃんと聞けた。死刑宣告を受けるような気持ちで彼女の答えを待つ。彼女は少し躊躇って、でもちゃんと答えてくれた。
「聞いちゃったんです。先輩と女の人の会話」
「え?」
「ヤリ捨てとか電話に出ないとか」
相川許さない。