大好きな女の子

「どうしよう、奈子ちゃんが起きない!尚!奈子ちゃんが!起きない!」
「うるせえっつの。あ、目開いた」

 騒がしい声に目が覚めて、泣きそうな顔の三木村さんが目に入る。その向こうに芦屋くんが見えて、ここはどこだろうと思って辺りを見渡す。

「店の裏」

 芦屋くんの短い説明に頭を巡らす。バーの裏側に住めるところがあるということかな……?小さな和室にテレビが置いてあり、布団の上に寝かされていた。

「芦屋くんの家?」
「違う。俺の家は別にある。帰るの面倒臭い時にたまに泊まってるけど」
「へー……」
「奈子ちゃん!あの、さ」

 キョロキョロしている私に三木村さんが話しかける。首を傾げると、恐る恐る私の手に伸ばされる手。空気を読んだように芦屋くんが和室を出て行った。

「奈子ちゃん、俺、ごめんね。奈子ちゃんに嫌な思いさせて」
「三木村さんは悪くないでしょ?嫌な奴だったのは、えーっと、お名前は存じ上げませんが、あの男」
「違う。俺がちゃんと……」
「うーん、でも……」

 この人が私の彼氏だって言えない。私の彼氏に触らないでって言えない。この人は、三木村さんは私のことが大好きで、私をとっても大事にしてくれるって言えない。芸能人と付き合うってこういうことなんだって、思い知らされた気分……。

「私がもっと可愛かったらなぁ……」
「やめてよ」
「え?」
「俺の大好きな女の子のこと、そんな風に言うのやめてよ……」

 胸がいっぱいになる。心臓がぎゅうっと苦しくなって、何かが込み上げてくる。私よりも泣きそうな顔をしている三木村さんに、手を握られる。
 地味。可愛くない。昔から何度も言われた言葉。呪いみたいに私の気持ちを縛って、時には体まで不自由にした。
 私は地味で可愛くないのだと思ってきた、ずっと。初めてだった。自分でもない人が、私が可愛くないと言われることを怒ってくれたのは。自分自身を傷付ける言葉は、謙遜でも何でもない。ただいたずらに、自分を、そして自分を大切に思ってくれる人を傷付けるだけ。


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