思い出2

「仕方ないからさ、飲みに行こ」
「はあ?!私忙しいってば!私は仕事に生きるって決めたんだから」
「そんなこと言ってたら男日照りが続くぞ」

 なんて最低なのこの男……。同期だからってセクハラ発言が許されると思うなよ。

「もうちょっとで完成するの。ほんとにあとちょっとなの。邪魔しないで!」
「だめ。可哀想な同期を見てられないから」
「う、うざ……!」

 ズルズルと引きずられる。気付けば夜の9時だった。今日は何時に会社に来たっけ。わからん。

「ちゃんと身だしなみ整えてこいよ」

 そう言われて更衣室の鏡を見たら、確かに酷かった。化粧もろくにしてないし、クマもできてるし、髪もボサボサ。男日照りは完全にセクハラだけど、この状態は確かに酷い。
 バッグに入っていた化粧道具で軽く見た目を整える。誰に見せるわけでもないけれど、仕事だからという理由で見た目にも気を遣えないのは嫌だと思った。

「仕事を言い訳にはしない。失恋も言い訳にしない」

 自分で失恋だと認識していることに驚いた。

 本当は、会いたい。すごく会いたい。一度きりじゃ嫌。また触れたい。何度でも、何度だって。名前すら忘れられるなんて嫌。またあの声で、甘く、優しく、名前を呼んでほしい。
 ちゃんと先のこと考えてついて行くんだった。こんなに夢中になること、想像できたのに。いやでも、あの状況で断ることなんて出来なかった。だから、出会って、セックスして、好きになって。全部全部、仕方なかったこと。

「大丈夫。大丈夫」

 忘れることなどできなくても、思い出にすることはできる。


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