彼氏と親友
夏休みと言えば、海。でしょ!
「でー、何でいつもと同じメンバーなわけー」
翔に悠介、文也と寧々。変わり映えしないいつものメンバーを眺めてうんざりする。せっかくの夏休み、何でコイツらの顔ばっか見ないといけないんだ。
「早坂誘う勇気もなかった奴が文句言ってんじゃねぇ」
「うるさいな!俺の知らないところで誘っとくとか気の利いたことしてくれてもいいんじゃない!」
「どんだけ甘えんだ」
ぶひゃひゃと悠介に笑われてため息を吐く。そうなのだ。夏休みの少し前に付き合い出した俺の彼女、ヨリちゃん。彼女はこの場にいない。もちろん一緒に行きたいと思ったし誘おうとも思った。でも何と、緊張しすぎて言い出せなかったのだ。正直こんなの初めてで自分でも戸惑っている。
「日向、ヨリちゃんの前行くと途端にヘタレになるもんね」
「……うるさいよ」
「女の子はね、ちょっと強引なくらいの男の子のほうがいいんだよ!」
「俺は寧々みたいなギャーギャーうるさい女嫌いだ!」
ふんっと捨て台詞を吐いて一人海に向かう。俺だってどうしたらいいか分からないのだ。手を繋いだり、キスをしたり、それ以上だって。ヨリちゃんに触れたいと思う。でも、体は上手く動いてくれない。
一人浮き輪に入って空を見上げる。出てくるのはため息ばかりだ。ふと俺たちの荷物が置いてある場所を見れば、翔だけが残っていた。みんな泳いでるのか。翔はいつもみたいに女の子に話し掛けられていて、不意に俺を見た。そして手招きをする。群がっていた女の子はいなくなり、俺は翔のところに向かった。
「ヨリちゃん」
俺に伸ばされた手には携帯があった。え、え?ヨリちゃん?え?まさかな、と思いながらディスプレイを見ると、通話中になっていて慌てて受け取った。
「っ、もしもし!」
『もしもし、早坂です』
「た、立花です……」
メールとか、電話とか。付き合う前は口実が必要だったそれに、理由がいらなくなって。ただ声が聞きたいだとか、くだらない世間話だとか、そういうのでさえ楽しいと思う。電話越しに聞くヨリちゃんの声はいつもより少し低くて、何となく色っぽい。
「どうしたの?」
『牧瀬から電話かかって来たの。みんなで海なんだって?いいなー』
「ヨリちゃんも来る?」
『あはは、遠いし無理だよ。それに今お母さんとショッピング中なんだー』
軽ーく誘った結果は玉砕。でもヨリちゃんが今何をしているか聞けただけで何となく嬉しい。夏休みは毎日会えない分、メールや電話をするけど、ヨリちゃんはたまに忘れてたとかでメールを返してくれなかったりするし。
話すのも嬉しい。でも、本音は。夏休みに入って2週間。そろそろ限界。
「……ヨリちゃ、」
『ねー、立花、お祭り行かない?』
「えっ」
会いたい、と。勇気を振り絞って言おうとした言葉を遮って、ヨリちゃんはそう言った。お祭り……お祭り……浴衣?!
「うん、いいよ」
冷静を装って返しながらも心の中では小躍りだ。ヨリちゃんは今ちょうどチラシ見たの、と言った。それを見て俺を誘ってくれるのか。彼氏ってすごい。詳細はまたメールで決めようと約束して電話を切った。翔に携帯を返すと、良かったねと微笑まれた。なんかすげー照れ臭い。
「……ああ。翔ありがとう」
「ううん、どういたしまして」
「翔ー!日向ー!」
海の中から寧々が呼んでいる。俺たちは立ち上がり、三人のところへ向かった。