そういう事はとっとといえよ


むす、とした表情は変わる様子がないので、派手な色彩の人形は不安定な首をかくかく揺らすと、ふむんと呟き腕を組んだ。
「すこぶる機嫌が悪そうだなあ」
「……うるさいわね」
やけに仏頂面だな。と、糸を操りながら思う。
彼女が機嫌を悪くするのはいつも通りなのだが(勿論彼はその原因をよく分かっているが改める気など更々ない)、今はまだ顔を合わせたばかりで会話らしい会話を交わしていない。
それによくよく見れば、怒っているというよりも―――
「……」
僅かに早い呼吸。勇ましい言葉のわりに声は少しよれて、心なしか視線もふらふらと揺れているような。
充血した目を潤ませたまま、背筋を伸ばしてふつうを装おうとしているのは、確かにいじらしいといえなくもないけれど。

彼は体をもたれていた壁から離すと、上着に手を入れたまま紅葉の前に立った。
屈んだとき落ちた影に少女は目を見開いて、しかし彼は特に気にとめる風もなく自分を見上げたその顔に額をつける。
「……!」
彼女は顔をあかくして、口を動かすが声にはならず、だから術者はそれに気づくことはなかった。
目を細めた人形が、だろうな、と、ため息混じりに頷く。
「熱がある」
随分あついぞと呆れたハズレ君に、少女は誰の所為だと怒鳴ろうとして、けれどそれを吐き出す前に、彼女はくらりとした眩暈に押されて目を閉じた。
ふら、とその華奢な体がバランスを失って―――腕の中に収まる。代わりに人形の方がだらんと地面に伸びた。
仕舞ったままだったもう片方の手も上着から出して、ひょい、と無造作に抱え上げる。ちらりと人形に視線を向けて、それから。
「――――――」
誰にも聞こえない声で呟いた独り言に、後ろの人形が嗤った気がして、彼は小さく舌打ちをした。


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