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「アーレルヤ!」
「ひっ」
突然の訪問への応答は実に情けない声であったにも関わらず、ライルの足は重力のある個室で浮いていた。
「おー、やっぱすげえな。」
ライルは肩に腕をのせてがっちりアレルヤの背中にしがみつき、両足をパタパタとさせる。それは所詮おんぶというものだった。
「なんなんですか?」
ふるふると怒りに震えながらもライルを落とさない為の考慮か、その体はしっかりと支えている。
「いやあ、アレルヤ筋肉凄いだろ?」
「だから?」
「だから、
いろいろやってもらおうと思って。」
首筋に顔をうずめてライルが喋ると、くすぐったいと頭を振られた。
アレルヤの顔は至極怠そうである。
「たとえば?」
しかしライルの突飛な馬鹿げた行動に、溜め息をこぼしながらもアレルヤは彼の相手をすることを決心した。
どうせノーといってもしつこく言い寄ってくるだろうし、今まで立て続けに任務があった分、実際暇を持て余していたのも事実だった。
「肩のぼりとか?」
肩のぼり…真剣にアレルヤが繰り返し呟く。
案外乗り気じゃないかと思い、ライルは愉快に思う。気を変えられては困るので口にはしなかったが。
「わかりました。
一旦おりてください。」
素直に足を床につけるとアレルヤは片足立て膝をついてしゃがみこんだ。
「足、持ちます。」
予想以上に真面目に大人しくことを進めるアレルヤに多少不安を感じるが、人の好意は素直に受け取れ、と自分に言い聞かせゆっくり彼の両肩に太ももをのせる。
と、その瞬間、体が宙に浮いた。そんな気持ちの悪い浮遊感をライルは味わい、そしてすぐ鈍い痛みに襲われる。ライルを肩にのせたアレルヤが勢いよく立ち上がったのだ。
「童心にかえりすぎて僕たちの背丈を忘れてましたか?」
ふらりと後ろに倒れるライルをそのままに、アレルヤは彼の持ったまま軽やかに笑う。
手加減をされているとはいえ、頑丈な天井と真っ向から衝突したライルはふんわりと意識が遠のく気がした。
宙吊りにされたままのため、頭に血がのぼりずきずきとした痛みが襲ってくる。
「おまえ、これ、死ぬ。」
続けて吐くを連呼すると、アレルヤが楽しそうにわざとらしく溜め息をつく。
「それじゃあ次は姫だっこだね。」
「あ?」
むせかけて、酒やけしたような声がでる。
アレルヤが膝をまげ担いでいたライルの足を下ろしたため、すとんと体が床に伸びた。
「気持ち悪いんですよね?
ベッドまで運んであげます。」
元々己が提案したことの一部にこの行為は含まれてはいるが、ライルは三十路目前にして男の自分がやはり男、しかも年下にお姫様だっこをされるだなんて想定外だった。
何かを失ってしまう気がする。
乾いた笑いをもらす間にも背中と足にすらりとしたアレルヤの手がまわる。
「気持ちよくさせてあげるよ、お姫さま。」
王子が爽やかに微笑んだ。
自分の腕の中でぐったりと光を失った姫の死んだ目など、皆目無視である。
(ねえ、次はどんなことしたい?)
こうゆうのりならハレライのがよかったのかも…
なんにせよ可哀想な管理人の頭