遺体は無いそうだが、ニールは亡くなったらしい。戦場の爆撃にのまれて…、それは、木っ端微塵ということなのだろうか。
そうと分かれば、婚約者のいなくなった僕にはあっという間にお見合いの準備がされた。おとなしめの色合いの着物をきて、襖をあけた先には優しそうな顔の人がいた。
良いひとだ。きっと。
誰でもよくなんて無い。そう思っていたからこそ本当にどうでも良い。ニールという天辺が出来上がっていたので、彼と付き合っていくことはいっそたやすかった。
いつの間にか、僕は嫌な女になっていて、恋人を失った悲しみをすべて隠すことをせずに、その哀愁で男を取り込んだ。彼と結婚し子供を産みニールが過去になっていく未来を想像する。
(悲しいなあ。)
ニールがいなければ、ニールのための涙には意味がなくなってしまう。それはただの自慰だった。



ニールはまだ29という若さで亡くなってしまった。そのあと僕のしたことと言えば、彼の部屋からローションを持って帰ったぐらいだ。そこに僕という男がいた痕跡は無いに等しかった。本かCDかなにかを少しいただいてしまおうかとも思ったが、それはあまりにおこがましいというものだろう。
葬式には、友人として参列した。彼の母親が棺桶にむかって話しかけているのをみて、あらためて僕が彼とはなんのつながりもない他人であったことを知らしめられたような気がした。
誰よりも近くにいたことがあったのに。
ことばにしてしまえば、彼と僕との間柄はひどく冷たいものに感じた。けれど、彼に伝えていなかった思いは深く、僕の中に残っている。今になってそれはとても愛おしく思えた。



白人特有の肌の突っ張ったような頬骨に、薄くそばかすが染みていた。首のあたりは皮膚がたるんでいて、そこに溜まった彼の匂いが好きだった。いつものように鼻を寄せてはみたけれど、病院の酸っぱいような匂いしかしない。彼の体全体がそんなかんじだ。老いてくすんでしまった美しさも、僕は愛していた。彼が死んで、やっとそのことを楽に認められるのだ。
僕とニールが白い教会で鐘を鳴らすことはきっとこの先も無かっただろう。僕にとってニールは守らなければならない相手ではなくて、僕はいつも未来が不安だった。だから、これは終止符になったのだ。いつかくる別れは今訪れていた。

さようなら、さようなら

これが、最後です




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