8月の話
社会人と学生

「それで、近くにその子の実家があって、そこで飼ってる犬が白くてふわふわですごく柔らかかったんだ。」
安っぽいステンレスのキッチンに顔を向けたまま、アレルヤはこの夏の思い出を話す。彼が友人の田舎の別荘に遊びに行ったときの話だ。
「可愛かったなあ。」
俺は特に返事を返さない。いま口を開けば皮肉しか出てきそうにない。
「あと、そこで、あ、」
ボウルの中の切り刻まれた野菜が鍋に入れられた時点で俺は立ち上がる。けれど料理とおしゃべりに夢中でアレルヤは俺なんかには気づかない。顔をつかまれ後ろからキスを仕掛けられてやっとびっくりしたような顔をした。
アレルヤが口をきけぬよう角度を変え何度も彼の唇をふさぐ。戸惑う顔は見ものである。やがて目を細め背中に手をまわしてきた彼に、気分が良くて耳や生え際を撫でた。何日も放っておかれた分をしっかり束縛してやろうとほくそ笑む。夕飯はそのあとで十分だろうと思ったそのとき、
「あ、沸騰しちゃった。」
アレルヤは俺の胸をおして体を反らし、火を止めた。そこからまた彼の料理は再開される。あろう事か俺より鍋を優先したのだ。
「あ、ごめん。すぐ作っちゃうから。」
アレルヤの耳にはまだ赤みが差している。その肩を後ろから抱いた。
「俺は、都合の良い男なんだな。」
大きくため息をつくと、アレルヤは小さく笑っている。
「なにを拗ねてるんだい。」
アレルヤの声は甘い。
「拗ねてねえ。」
「そうかい。」
馬鹿にされているようで腹がたったので、彼の襟足を引っ張る。すると、軽く足を踏まれた。その感触が柔らかで、そのままふくらはぎを寄せた。


「なあ、21日くらいからさ、何日か連続で休みとれそう。」
「うん。」
「そしたらさ、どっか行こうぜ。」
「うん、いいね。」
小皿に掬ったスープをアレルヤが啜る。
「なあ、味見させて。」
「え?」
我ながらくさいと思いつつも、コンソメの味の唇を舐めた。アレルヤの優しさが伝わったなんてださいセリフは、到底伝えられない。






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