幸せに息がつまる程生易しい世界にあなたと、



クリスティナは変わり映えしないなんとなく薄汚れた地元をずんずん歩く。音楽がなければ、とても歩く気がしない。
車のいなくなった時を見計らい道路を渡った。駅沿いの道を歩いていると、道端に嘔吐物を見つけてしまう。最悪だ、と息を止めてそれの前を通り過ぎた。
改札をくぐり、少し奥までホームを進む。
いつもと同じところまできて止まる。もう春だというのに薄ら寒くて、歩くのをやめた瞬間に、なんだか指先が冷えたような気がした。

やってきた電車は何時もより一層混んでいて、クリスティナの探す長身な筈の彼の頭も見つからなかった。
無理やり乗り込んだ車内では身動きなど取れるはずもなく、少し気分が落ちた。
どうすることも出来ないまま、もう次の駅が迫ってきていた。電車は減速し始めて、窓の外にはホームが見えてくる。
そしてブレーキの踏まれた衝動に車体は大きく揺れて、うまく体勢がとれないままに足がもつれ狭い車内で見えない背後に体が傾いた。
「きゃ、」
「、と、大丈夫?」
ドアが開き、大勢の人たちがぎゅうぎゅう押し合うように電車から出て行く。
本来なら、彼らに踏まれていたのかもしれないのだと思うと、ぞっとした。
「アレルヤありがとう。」
「ううん、なかなか動けなくて。すぐ来れなくてごめんね。」
アレルヤは片手でクリスティナを自分の方に引き寄せて、人の波にのまれないようにしている。
「よっかかってていいよ?」
頭ひとつ分下を見下ろして、アレルヤははにかむ。
「ありがと。」
下を向いて言った。クリスティナはアレルヤの方を見れなかった。いつもは自分に押され気味で控えめなアレルヤが、今はなんだかすごく頼れて、そのギャップにどうすればよいのかわからなかったのだ。
最初は緊張に体が強張ったけれど、いつの間にか肩に入っていた力も抜けた。
優しく前に回されたアレルヤの手をにぎり、そっと目を閉じる。周りの雑音が遠くに聞こえた。ぬくもりの、このしあわせに息もつまりそうだと思った。
「あれ、笑ってる?」
「うん、なんかね。」
「なんかって?」
「なんでも。」






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