最近俺はついてなくて、少しネガティブになりぎみであって、だから小さくガッツポーズしてしまう。アレルヤの事は前から少し気になっていて(男相手に言うことではないのだが)、珍しく空いている彼の隣の席に半ば強引に座った。
そしたらアレルヤは、ちょっと驚いたような顔をして、その後すぐに眉を下げて笑って、可愛いなあ、なんて思ってしまったんだ。

アレルヤは笑っていても、なんだかいつも少し悲しそうだ。それでもいつもにこにこ、優しげに笑っている。なんだろうな、この感じ。
俺はアレルヤを守ってあげたいとか、助けてあげたいとか、抱きしめてあげたいとかそうゆう風に思っていた。アレルヤは俺より背も高いたくましい体つきの男で、けれど無償に俺は奴に尽くしてやりたいと思っていたのだ。

「辛いこととか、まあ、さ、なんかあったら俺に言えよ。」
少し格好つけて言ったセリフに、アレルヤは少し泣いていた。
背中を叩けば、ぽつり、ぽつりと言葉を零し、アレルヤの境遇やらいまの状況などとにかくその大変さを聞いた俺は酷く心をうたれた。

そんな事があってから、アレルヤは前よりも俺を慕うようになった。俺を見つけたアレルヤが、名前を呼んでひょこひょことこちらへやって来るのを見た友人が、でかい弟ができたなとからかったりもした。俺はそれが嬉しくて、アレルヤに早速話してみれば酷く嫌がられた。僕の方が少し誕生日も早い、だなんて言って。

アレルヤは酒に弱い。けれど今日は俺も少し頭がふらふら、目頭も熱い。
それでもなんとか左肩にアレルヤを抱え、右手でドアノブを回す。
「家ついたぞー。」
泥酔状態のアレルヤを俺のアパートに連れてきた。家の場所を聞いてもまともに答えなかったのだ。
「トイレ…」
そう呟くとアレルヤはずるりと俺の体から退いて、のそのそと部屋の中へ進んでいってしまった。土足である。
「あ、おい靴!」
続いて家に上がるが、奥の方でアレルヤはトイレを見つけたのだろう、パタンとドアの閉まる音がして、なんとなく脱力する。とりあえず後ろの壁に背中をつけてフローリングに腰を下ろすと流水音がして、アレルヤがトイレから出てきた。
「アレルヤ、お前靴、」
「ん、」
そのまま脇のベッドに向かおうとするアレルヤを呼び止めると、とろんとした顔がこちらを向く。
「ニール、」
呂律の回らない舌が、俺の名前を呼ぶ。
アレルヤは俺の前でぺたんと座りこんでしまう。
真っ赤で、眉を下げた、捨てられた子犬の様な顔をする、弱々しく俺の腕を掴んだアレルヤを見て、先ほどの会話を思い出した。

「自宅英会話セット?」
「そう、そんなもの簡単に売れるわけないのにね。」
「売れてないのか、」
「当たり前だよ、僕そんなのやったことないし、でももう前金払っちゃったし、」
「んー、俺、買ってやろうか?」
「馬鹿なこと言うなよ。」

こんな顔して、ぐだぐだに酔って、そういえば昔から俺は英語が得意じゃなかったり、それほど高いわけでもない、そんなに損になるわけでもないし、
なんて、悶々としている内に、アレルヤとの距離感の変化に俺はふと気づいた。
普段は全然気にしていなかったアレルヤの顔の端正さ、熱を孕んだ表情、小さく開かれた唇がすぐ近くにあった。まっすぐにこちらを見てくる瞳の色は濁っていて、状況に追いつくよりもそればかりを覗き込んでいるとまたすぐに新しい展開が広がる。
薄く柔らかい、皮の掠める感触がした。
唇に直に与えられかけたその行為に、俺はアレルヤの肩を強く押し返した。
「やめろ!」
アレルヤがキス魔であった記憶は無い。
はねのけられてよろついたアレルヤは、しりもちをつき、大きく目を開いている。驚いたのはこっちだというのに。
「なんだ、ニールって、」
妙にはっきりした声色のアレルヤは、ゆっくり立ち上がる。前髪に隠れて顔は見えない。
「なんだよ、なんなんだよ。」
震える声の俺とは正反対に、上からちらりと俺を見たアレルヤの顔は、何を考えているのか全く分からなくて、困惑とか怒りとか、どんどん増えていく感情に整理がつかなかった。
「さようなら、ニール。」
アレルヤは玄関のドアを開けふらりと外へと出て行った。
ひとりきりの部屋で、どのくらいそうしていたのだろうか、朝起きたら、同じ体勢でいて、フローリングの板目が足裏についていた。

これは冬の終わりの頃のことで、その後アレルヤの姿を一度も見ずに春休みに入った。
どうやら自分に近づいてきた俺をホモかなんかかと思ったアレルヤは、それを利用して詐欺まがいのことを仕掛けようとしていたらしい。お前騙されてたんだよ、みなそういった。変な壺とか買わされなくてよかったな、なんて。
それでも未だに、そのなんやらセットを買っていればもう少し長くアレルヤと一緒にいられたかもしれない、なんて思ってしまう。
英語もうまくなれたかもしれないし。
もしかしたら、本当にアレルヤは困っていて、それで俺を頼りにしたのかもしれない。
本当に俺を頼りにしていたんだとしたら、そしたら、










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