さまよった掌を、君は捉まえてくれますか、













「ライル、開けろ。」

首を上げると窓の格子に無表情な子供の顔が挟まっているのがみえた。とっさに(衝撃による数秒の空白はあったが)勢いよく窓を閉めると目を見開いた少年が、肩をすくめてひらりと後方へ下がる。
なにしてんだ。の一言に尽きる。いっそ挟まって出れなくなってしまえばいいと思ってからふと脳内で窓から常に人が顔を覗かせている部屋で過ごし、ぐったりとした体が窓からぶら下がっている家から出勤する自分を想像した。

つっかけをふんでドアノブを回すと早速、真っ黒なくせ毛を弾ませながら学ランの少年が狭い玄関からするりとライルを無視してすり抜けていった。



「今日はマリナが仕事で遅くなるから、お前のうちに行けと言われた。」

居間で携帯をいじりだす近所のいけすかない少年、刹那にライルはため息をつく。







「はいよ、」

ことりと安っぽい皿を2つ並べる。
テーブルの上を見つめぼそぼそ刹那が、ソースが良かったとかなんたら呟くが無視した。ライルは断然塩派だ。

「残すなよ。」

不満げな顔にそれだけいいやれば、刹那は箸をもち、焼きそばのやまを崩しにかかり始めた。
と、思えば頬を膨らませながら、ライルをじっと見つめてくる。

「…いただきます。」

「おう。」

礼儀も糞もねえなと思っていたところでのひと息おくれたそれは、奇行に順するものであったが、しかしまあもくもくと食べる刹那のようすも年相応ですこしは可愛げもあるといってもいいのだろう。

ライルも口をつけはじめると、少しして刹那の手の動きがぴたりととまった。

「ん?」

「相談がある。」

ただ珍しいと思った。
そうゆう年頃だ、悩みの一つや二つ、大人が干渉できる部分でならそれは聞いてやるべきだと、刹那の目をみる。

「たぶん、告白、された。」

ライルははじめて刹那のそうゆう話を聞いたのだと思う。基本無口でなにか言ったと思えばガンダムやらなんやら、味気ない青春だなあとひとごとながら侘びしいと感じていたのだが、彼にも春がやってきたということか。

「よかったな、可愛いこか?」

ライルが朗らかに笑ったのとは対照的に、若干、刹那の顔が引きつったようにみえた。
脇のスポーツバックを引き寄せて、探り出した二枚の紙をライルにむけてテーブルにのせた。

「これと、」

一枚は小さなプリクラで、刹那が指差したのはばっちりウインクして写っている赤毛の女の子だった。

「なかなかいいじゃないか、」

刹那に合うタイプに見えるかどうかの有無は置いておく。

「あと、これ」

もう一枚は教員紹介の便り、確かにその紙で。
刹那がさすのはそこにスマイル全開で写る金髪の爽やかな、青年のような同じく掲載されている年齢にしては幼顔の男だ。

「まあ、そうゆうこともあるよな。」

「無い。」

(お前も大変だな、)
(だから相談した。)
(てゆうかなんで俺?)
(ハレルヤからライルは性に対してアグレッシブで男も女も気にしないような節操なし野郎だと聞いた。)
(…)
(ごちそうさまでした。)



title by jane

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