「この、どろぼうねこ!」
突如、耳に届いて来たその単語に、私はハッと顔をあげる。
すると、そこにはキャラクターものの小さなビニールシートを広げて、おままごとをしている幼稚園児くらいの子供たちがいた。
「わたしのだんなにちょっかいだすんじゃないわよ!」
「……」
……何だか、妙にリアルだ。まさか、実際に家でもそんな事が行われてるんじゃないだろうな。
そんな不安に駆られながらも、邪気のない笑顔で遊ぶいたいけな子供たちを眺めていた私の頬に、不意に温かい缶コーヒーが押し付けられる。
「しーらいし」
「…先輩」
見上げると、グレイの高級スーツに身を包んだ高城先輩の姿があった。
「商談、うまくいって良かったですね」
「まあな」
よっこらせ、と顔に似合わないおじさんくさい声を出して、先輩は私の横に座る。
手狭なベンチの中が、私と先輩でいっぱいになった。
「今日はよくやったな」
「え?」
「プレゼン、相手方もわかりやすかったって喜んでたぞ」
「あ、ありがとうございます!」
先輩に誉められるなんて滅多にないことだから、私は嬉しくなって、受け取った缶コーヒーを両手で強く握り締めた。
「早く飲め」
「は、はい!」
そんな私をおかしそうに横目で一瞥した後、先輩は自分のホットココアを一気に飲み干す。
顔に似合わず甘党な先輩は、糖分高めのホットココアがお気に入り。
コクンコクンと上下に動く喉仏が扇情的で、私は思わず見入ってしまった。
「…白石」
「はいっ」
急に名前を呼ばれ、ハッと我に返る。しまった。またいつの間にか、観察してしまっていた。
「そんなに俺のこと好きか?」
「……えっ」
あまりにも直接的な言葉にギクリと肩が揺れる。
「……あ…」
ここで、嘘を言っても仕方ない。と言うか、初めからバレバレなのでしらばっくれても意味がない。
「好きか?嫌いか?」
「…す、すきです…」
尋問するように早口で捲し立てられ、私は観念してそう答える。
その返答に満足したように、ニッと歪められる先輩の唇の近くにあるホクロが、やっぱり色っぽい。
「じゃあ、決まりだな」
「あ……」
まだ一口しか口をつけていなかった私の缶コーヒーを横取りし、先輩はそれを一気にあおる。
もしや、そ、それは間接キスなのでは…と、ドキマギする私の肩に手を置いて、先輩は意地悪く笑った。
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お題
横取り
∴ゆびさきにきす様へ
copyright(c)2011.03.25 まいみ
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