1000hit記念企画 | ナノ

1000hit記念企画

彼女が幼女に若返り?01
少年の目の前には居候二号を追い回しつつ憤怒の炎を込めた銃弾でもって射撃する青年、そしてそれを明らかにドン引いた眼差しで見つめる居候二号と同い年くらいの少女。無論居候二号とは牛柄のツナギを着た少年ランボであり、青年は9代目の養子で尚且つこのヴァリアー本部の主XANXUSだ。本来であれば齢17の沢田なまえは今や引きつった顔で立っている7歳前後の幼子でしかない。

どうしてこうなったのだろうかと沢田綱吉は回想にふけった。

諸事情で沢田家は離散状態になり、母親の奈々は父親の家光とともに海外旅行という名の逃亡生活、そして居候達と双子はヴァリアー本部に滞在することになった。綱吉の守護者らも離散状態にあり、状況をひっくり返すには守護者らをなんとしても集合させる必要があった。

まさかのかつての敵に保護されるときが来ようとは誰ひとりとして思ってはいなかったがこうなってしまった以上致し方ない。もちろんXANXUSも本意ではなかったはずだが、沢田綱吉を視界外でめいいっぱいこき使うことによってそのストレスは若干緩和されているらしい。

沢田綱吉はこき使われつつも、それとは別にリボーンからの厳しいシゴキに耐えつつも、なんとか守護者を招集しようと四苦八苦していた、今日もそんな一日で終わるはずだった。

詳しい経緯は省くが、リボーンとの一方的な小競り合いで泣かされたランボがお約束のように10年バズーカを発射したが、最強の家庭教師の妨害のために射線が動かされ、そこを通りかかった殺し合い中のレヴィ・ア・タンとベルフェゴールらによって射出された弾丸は雷撃を食らいワイヤーで更に軌道をずらされ、その先に居たスクアーロは暗殺者生活の中で培った反射神経で避け、その後ろを双子の兄沢田綱吉とともに歩いていた沢田なまえは避けきれずに被弾した。

煙が広い廊下の局地を覆い、隣に立っていた綱吉は双子の片割れの名前を叫ぶ。それだけでも十分賑やかだが、それに加えて、

ぉい!

そんないつもの叫びが厳しさに全振りした外観内装のヴァリアー本部の廊下に響き渡り、それによって安眠を妨害されたXANXUSが廊下から勢い良く出てきた。それと時を同じくして煙が晴れ、被弾者の状況が明らかになる。XANXUSは珍しくその双眸を見開いて彼女を見つめていた。

「……おい」

やがて誰に言われるでもなく状況を把握したXANXUSは低く低く、地を這うような声で綱吉を睨みつけた。何度か向けられたその眼差しにひっと情けない声が漏れてしまう。これで戦いの時は一切怯まないのだから平時との差が激しい。

そして、平時にこそ真価を発揮すると9代目に指摘された彼の双子の妹といえば。

「ここ、どこ……」

ランボよりも少々大きいくらいの身長。長めのボブヘアで整えられていた髪はやや短い。小刻みに震える身体は彼女の精神も時を遡っているが故か。

いきなり緊急事態に放り込まれた上に目の前にすさまじい形相の男性がいることもあって、彼女は泣き出す寸前だった。大きな丸い瞳がゆらゆらと涙に揺れている。その様相に泣き出すサインを読み取った綱吉はなまえを抱えてあやしはじめた。

「ほら、泣くなって。お前の双子の兄貴が一緒にいるから」
「ツナ、なの?」
「そうだよ」
「でもツナこんなに大きくなかった」
「今は未来なんだ。もう少ししたらきっと戻るから」

兄妹がそんなやり取りをしている間にXANXUSの方は未だに争うレヴィ達を押しのけてこの騒動のきっかけになったランボのもとへ向かう。

そして場面は冒頭に戻る。

*

ランボの悲鳴を聞いてはっと我に返った綱吉は慌てて彼女を床におろし、ランボとXANXUSの間に割って入った。綱吉によって邪魔をされた形になった青年は彼を鋭く睨みつける。天性の鋭い目つきを存分に活かした威圧もランボの生死が関わっているこの状況では沢田綱吉を退かせる一助にはなり得なかった。綱吉も真っ直ぐにXANXUSの目を睨みつける。

「邪魔をする気か、沢田綱吉」
「ちょっと待ってよ!まだランボは子供だろ!?それにコイツをいびっても事態は何も解決しないじゃないか!!」

沈黙、にらみ合い。そして青年が舌打ちして両手の拳銃をホルスターに戻した。それを見届けた綱吉は肩の力を抜いた。この男も綱吉と殴り合えばタダではすまないが、それは綱吉の側も同じだった。だから無用な争いを避けられて安堵していたのだ。

「なまえ、もう大丈夫だよ」

双子の兄にそう言われたのになまえの顔は引きつっている。彼女の怯えの眼差しの先には青年があった。

「なまえ」
「あの人、怖い」

それがいきなり知らない時代に放り込まれて、周囲を知らない人に取り囲まれ、目の前で銃撃戦を見せられた幼い沢田なまえの偽りならざる感想だった。

*

数時間後のヴァリアー本部の談話室。そこには五人の男女(?)がソファに腰掛け思い思いの時を過ごしていた。即ちヴァリアーの幹部、スクアーロ、レヴィ、ルッスーリア、マーモン、ベルフェゴール。

「ボスさんはどうしたぁ?」
「篭ってるわ。なまえちゃんの素直な感想にショックを受けたみたいね。色々壊れてる音もするから今日のところは近寄らないほうがいいわ」
「それにしても、アイツビビりすぎじゃね?銃撃戦もタイムトラベルもはじめてじゃねーじゃん」
「あの小娘、無礼にも程がある!」

ルッスーリアは憤るレヴィをまあまあとなだめた。

「あの子のことはあの子にしか分からないわよ。ただ一つ言えることは、大昔にボスと出会ったときと状況は大違いってこと」
「ム。それはたしかにそうかもね。昔のボスはあの彼女とさほど年は変わらなかったけど、今のボスと彼女は大人と子供だ。それに彼女はここに来て早々にボスのアレを見たわけだろ?それじゃあ混乱してしまってもしょうがないね。それに彼女が今のボスと彼女が出会ったボスを等号で結べるかも少し怪しい。そもそも出会ってもいないかもしれない」
「ぬう……」
「なんにせよ、これは当事者でなんとかすべき案件だ。どちらに手を出すにせよ僕らが下手にクチバシを突っ込めばこっちまで大ヤケドだよ、レヴィ」

マーモンの冷静な分析に全員が唸った。ところで彼らのボスが、スクアーロいびりを趣味としているフシのある彼が、不機嫌になって最も被害を被る人間は誰だろうか。それはもちろんスクアーロである。あの状況ではスクアーロの毛髪が尽きるほうが先か、なまえとXANXUSが仲直りするか彼女が帰るかするのが先か、という話になる。スクアーロはいつもの叫びをあげるとソファから立ち上がった。

「ジョーダンじゃねえぞぉ!!ボスさんの怒りを一身に受けろってことかあ!!」
「うん。頑張って生き抜いてよスクアーロ。彼女いつ帰るかわからないけど」

もう一度冗談じゃないと叫んだスクアーロを見て、ふと思いついたように霧の幹部は口を開いた。

「君に得るものがないのも可哀想だからこの場の全員で賭けをしようか。一口100ユーロから、賭ける対象はあの二人のこの先について。彼女が帰るまでにボスと仲良く出来るかどうか、出来るとして何日かかるか。もちろん胴元はスクアーロ、君さ。君が胴元をやれば結果がどう転んでも得るものがある」
「倍率はどうする」
「賭ける人数を増やそう。ヴァリアー全員でやるんだ。半日経って、かけた人数が多いところは倍率を下げてしまえばいい。もちろんボスには内密に。漏れたら大惨事だからね」

どう?やる?マーモンが四人の顔を見渡すと、彼らは互いに顔を見合わせ、頷いた。
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