1000hit記念企画 | ナノ

1000hit記念企画

キスで目覚めるらしい?01
必死な顔つきのルッスーリア隊長に半ば引きずられるような形で連れてこられたボスの書斎。その大きな机の上に居座っていたのはこのみょうじ・なまえ最大の敵、カエルだった。しかもかなりでかい。平均よりもでかいと自負する私の両手に余るサイズのように見える。

黒い体。赤い瞳。僅かに覗く腹は白っぽい。連中の生態を知らないし知りたくもないけれど珍しい色合いなのではないかと思ったが、なぜこんなのがボスの書斎に居るんだろう。

「失礼しました」

カエルに背中を向けて扉の方に向かおうとすると野太い声に制止された。肩をがっと掴まれる。手がめり込んでいる。あなた中身は女のつもりでも肉体はどうあがいても男なんだから手加減してくれ。渋々逃げることを諦めて体から力を抜くと肩の手は離れた。痛かった。

「なんですかあれ」

あれのところでカエルを指差すと、なんか空気が禍々しいものに変わった。発生源は死んでも見ない。あれは視界に入れるのもおぞましいものだ。まさかカエルが人語を解すわけあるまい。

「ボスよ」
「何言ってるんですかボスがあんな両生類なわけないでしょう」
「ボスなのよ」
「嘘だ」

敬語さえすっぽ抜けた。禍々しい空気はまだまだ発生している。いや、禍々しさが増した気さえする。それでもカエルの方は見ない。アイツは私の不倶戴天の敵だ。

「んもう。困ったわねえ」

おそらくカエルの方を見てどうする?と聞いているルッスーリア隊長は異常だ。だって人間がカエルになるわけ無いだろう。両生類と哺乳類が生物の系統樹でどのくらい離れているか知っているのか?馬鹿馬鹿しい。

こっちには山ほど書類があるというのに。私は無言で扉に手をかける。それと同時にスクアーロ作戦隊長が扉が壊れそうなほどの勢いで内開きの扉を開け放った。内側に居た私は顔面に重量と厚さのある木の板が直撃し見事に吹っ飛ぶ。なぜ扉を開けたのがスクアーロ作戦隊長かわかったかというと、頭蓋骨の中で衝撃が反響するような状況でもあの馬鹿でかい声はちょっと聞こえたからだよ!1メートル近く離れた場所に背中を叩きつけられた私は咳き込みながら鼻に手をやる。血がだらだら出ているが折れてはいない。よかった!というか一瞬、自分の体を俯瞰していたぞ!

言いたいことは山ほどある!せめて入室する前にノックをしてくれ!

それらを言葉にできるほど回復する前に驚くべきことが起きた。私の背後から光が差したように思えたから後ろを向いた。見ると机の上のカエルが光り輝き、大きく口を開ける。すると、驚くべきことに太いレーザーにも似た炎をその口から発射したのだ。見覚えのありすぎる炎にめまいがする。きっとこれは頭を打ったせいで見ている幻覚なんだ。カエルがボスだなんてそんな悪夢のようなことがあるわけはない。目が覚めて、書斎に書類を提出しに行くといつものボスが居るに違いない。いや、もしかしたらマーモン隊長の幻術なのかもしれない。むしろそうであってほしい。切実に。

私は作戦隊長の悲鳴じみた叫びをBGMに祈るように目を閉じた。

*

無慈悲にも、あれは夢でも幻覚でもなかった。現実だったのだ。現実とは非情なものである。これは世界征服とか言い出すやつが出てきても仕方がない。私もそんな力があれば世界というちゃぶ台をひっくり返してしまいたい、切実に。

目が覚めると私はベッドに寝かされていた。夢だったのだと安堵する私はベッド周りを見渡すと、サイドテーブルにそれは居た。

カエル、いや、ボスだ。あの炎を、憤怒の炎を扱い、人間様に対しても一切怯むことのない態度はもう認めざるを得ない。兄弟殺しの王族、肉体派オカマ、変態エリート野郎、声のでかいやつ、元アルコバレーノ。こんな個性溢れすぎている連中を暴力とカリスマでまとめてるボスだと、認めるしかない。たとえ右半分に土を、もう半分には水を入れた木の桶に入っていたとしても。

見知った赤い瞳とじっと目を合わせる。私は蛇に睨まれた蛙のように動けない。あれ、なんでカエルに睨まれて動けなくなってんだ私。

*

私には、6つほど年の離れた兄がいる。面倒見は悪くないが、時折するいたずらがえげつないものだったから私は少し苦手だった。兄が12歳、私が6歳の暑い夏の日、私たちは渓流で水遊びをしていた。

兄は何かを捕まえたきたかと思うと、私の鼻先にそれを押し付けた。

あの感覚は今でも悪夢に見る。ヌメッとした皮膚。何を考えているのかわからない目。ペタッと私の頬に触れた吸盤の付いた指……。もう思い出すのも嫌だ。

兄としてはきっと悪ふざけのつもりだったのだろう。だが、幼い私は絶叫し、すっ転んで浅いところで溺れて、兄に救い起こされることになった。カエルはというと、溺れる私を少し離れたところから、涼しい顔で見つめていた。

とにかく、私はあの日以来、カエルが大の苦手になった。

*

「それは……大変だったわねえ」
「ええ、本当に」

意識を取り戻してボスとのにらめっこを視線をそらすことによって強制的に終わらせた私は部屋にやってきたルッスーリア隊長と話をしていた。

ところでボスはどうしてああなったんですか。そう聞くと、ルッスーリア隊長はひどく困ったような表情になった。

「それがね、昨日の任務で暗殺した相手がどうも呪術師だったみたいで」
「は?」
「世の中にはいるの。本当に魔法を使えちゃったり、呪うことができる人間が」
「そんなオカルトな」
「でも、あなたは未来を予知できる人を知っているでしょう?」

そう言われて真っ先に思い浮かべたのは、一房だけ長く残して他はおかっぱの青い瞳の少女。そういえばユニは予知能力者だった。連想のようにぽっと浮かんだのは白髪、目の下に三本爪で引っ掻いたような痣のある男。白蘭は平行世界の自分とつながることのできる異能力者だ。別の世界線の未来でボンゴレファミリーは白蘭と対立したが、過去からやってきた沢田綱吉氏のお陰でなんとか彼に打ち勝ち、ユニの命を賭した行為によって世界は救われたのだ。

そう考えると、たしかに呪術や魔法の一つや二つ、使える人間が居ても不思議ではないのかもしれない。いや、それでも、いくらなんでも人間をカエルに変えてしまう魔法なんてナンセンスだ。

「まあ、百歩譲って魔法云々は認めるとして、一体どうすればボスはもとに戻るのでしょうか。ずっとこのままというわけにも行かないと思うのですが」
「術師はもう死んだから解き方がわからないの」
「え」

私は思わず固まってしまった。解き方が分からないだって?というかこの手の呪いとかは術者が死ねば戻るんじゃないのか。戻し方がわからなければボスは永遠にこのままということになる。それはボス的にも、ヴァリアー的にも、そして私の精神的にも非常にまずいのでは。

「そう、だから今レヴィとか頭のいい隊員、術師のマーモン、その他の変人奇人をかき集めて、残された資料を解読して術の解析をしているわ」
「今のところ進捗は」
「さっぱりね」
「その間、ボスをどうなさるおつもりですか?」

そこでルッスーリア隊長はとても申し訳無さそうな表情になった。嫌な予感がする。弱者の嫌な予感というものは、だいたい外れない。今回も寸部違わず当たっていた。

「しばらくボスの面倒を見てあげて」

そこで久しぶりに桶の方を見た。そこにはボスが居て、私を縦長の瞳孔の中に捉えていた。頭を激しく打ったせいかめまいがする。きっと私は重傷なんだ。だから聞き間違いなんてしてしまうんだ。きっとそうに違いない。私はフラフラとベッドに戻ってばふっと枕に顔を埋めた。そして目を閉じた。
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