色んな人の誕生日記念のお話
フラン誕生日
(補給班の人)(ミルフィオーレと激突する時間軸)
(例によって捏造注意)
トゥリニセッテのコンプリートによって超世界の覇者になるという白蘭の野望は10年前からやってきたボンゴレ10代目沢田綱吉殿に砕かれた。そして文字通りの死闘の果てに世界を救ってみせた彼は、仲間たちとともにあるべき世界に帰った。その瞬間、彼の世界と私たちの世界の連続性は絶たれた。この世界のことを知ったあの世界の私がどうなったのか、この私には知る由もない。どの道筋をたどるとしても、多分彼女には悪いようにはならないはずだ。……そう、たとえ、あの世界のボスと私が出会わないとしても。
何はともあれ
これは、そんな人たちが残していった、騒がしい日常の中の一幕である。
*
「なまえ班長ー。今日はなんの日でしょーかー?」
班にあてがわれた部屋に唐突に現れてこんなことを聞いてくるカエル頭はフラン。マーモン隊長が復活した以上彼は隊長格から下げられてしまったのだが、不平不満を言うこともなく元気にヴァリアー隊員を続けている。個人的には師匠のもとに帰っても文句は言われないと思うのだが。元といってもアルコバレーノだ。学べることは多い。それ意外にも目論見はあるかもしれないが、ボスが居ることを許している以上、おそらく危険はないだろう。
と、それはさておき。質問に答えなければ。ペンを置いて彼の顔を直視する。飄々として読めない彼が居た。相変わらずカエル頭をかぶっている。
「『秋の日の ヴィオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し』。オーバーロード作戦の実行日でしたっけ」
「まあ確かにミーの誕生日はノルマンディー上陸の日で、ミーの国では一大イベントですけどもー」
「冗談です。誕生日でしょう?おめでとう」
「覚えているのに適当なこと言うのやめて下さーい。これだから軍人崩れは」
余計な一言とともにチョコレートケーキが差し出される。ジャッポネーゼ式の祝う側が幹事となってパーティーを開く誕生日パーティーもちょくちょくあるのでついつい忘れがちだが、イタリアでは基本的に誕生日パーティーは祝われる側が幹事だ。食事も祝われる当人のおごりだ。そういえば彼は今日は任務でパーティーを開けないのか。だからケーキを振る舞っていると。
「毒なんていれてませんから食べてくださいねー」
そう言って彼はさっさと出ていった。私は彼の背中を見送って、チョコレートケーキを口に含んで……。刺激的な味を知覚したときには、既に意識は暗転していた。私の部下二人の内のどっちかの悲鳴が聞こえたような聞こえなかったような。
*
目が覚めると毎度おなじみ医務室の天井だった。夢の中、だだっ広い川の向こうで爺さんが手を振っていた。あれがジャッポーネでいう三途の川というやつか。臨死体験というやつだろうか。というか私は死にかかったのか。原因はわかっている。あのケーキだ。無事に川の向こう岸に渡る前に戻ってこられたが、体が異様にだるい。さてはあのケーキ、筋弛緩剤でも入っていたのか?
身体を起こすとフランがいつもどおりの表情で座っていた。彼の全身にナイフが刺さっている。流石に顔面だけは無事だし血は一滴も流れていないが、傍から見るとひどく痛々しい。突き立てられているナイフの意匠を見るにおそらくベルフェゴール隊長のものだ。それに加えてカエルの片目が消し飛んでいる。こんなことをするのはボスくらいしか居ない。
時計を見るとフランがやってきてから一日と半分ほどが経っていた。つまりそれほど長い間意識を失っていたということか。
「本当にすみませーん。ベルセンパイに振る舞うはずだった超強力な経口筋弛緩剤入りチョコレートケーキを、ミーってばうっかりなまえ班長にあげちゃってたみたいですー。本当申し訳ないっていうかー」
「すみませんで済んだら軍警察も復讐者もいらないと思いません?」
「そこのところはミーのこのサボテンみたいな姿を見ておさまってもらうとうれしいですー」
もしかしたら私のお陰でベルフェゴール隊長は命拾いしたのか。そして毒を入れられようとしていたことに腹を立てた彼はありったけのナイフを投げつけたと。カエルの片目はボスの炎が吹き飛ばしたといったところか?それにしてもひどい目に遭った。結果として私の命はあったし、彼もそれなりの制裁を与えられたのだから、私からこれ以上の制裁を下す必要はないだろう。私は肩をすくめた。
「とんだ誕生日ですー」
「あ、そう言えば誕生日プレゼント渡してなかった。ウィルが持ってるはずだからもらってこればいいんじゃないかな」
「一体何をくれるんですかー?」
「それを言っちゃあ面白くない。喜んでもらえるかはわかりませんが、困るものではないと思う」
さ、いってらっしゃいませ。そう言って送り出すと彼は霧のように消える、その間際。
「ボスからの伝言ですー。『今度は薬物耐性訓練だな』だそうですー」
そう言って消えた。反応する間もなかった。背中をマットレスに押し付ける。また訓練が増えるのか嫌だなあ。アルコールへの耐性なら喜んでつけるのだが。先のことを無闇矢鱈に気にしてもどうしようもない。
先に待ち受ける地獄から意識をそらした私は、化粧箱の中の黒いペンを思い浮かべて笑んだ。気に入られたらいいのだが。そして、願わくばちゃんと書類を出してもらいたい。
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