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Washing

銭湯でのんびりと湯船につかると天国にいるような気分になる。欲を言えば露天風呂がほしかったけれど、贅沢は言えない。ぬくぬくと湯につかれるだけいいことなんだ。それに本来の目的は土方さんの慰安だ。せっかくの休暇なのにあたしのために大部分を費やしてしまったことへのせめてものお詫びというか。その割には費用はすべて土方さん持ちなのがとても申し訳ない。土方さん曰く、沖田さんがいないだけでも十分とかなんとか。普段何をされてるんだろうこの人。

髪の毛を乾かしてほかほか気分で男女共用スペースに出ると、すぐそこに10分100円のマッサージチェアがあった。いくつかある内の一つに深く腰掛けて目を瞑る土方さん。珍しく眉間のシワがほぐれている。既に動作は止まっているのに目を開く様子はない。お昼寝中なんだ。意外。お昼寝なんて言語道断と言わんばかりの人に思えたのだけど。剣をとっていた時の迫力が嘘のように思えるほど穏やかな寝顔に、ついくすりと笑ってしまう。するとその声に意識を呼び戻されてしまったのか、眉間のシワが深くなって、目が開かれていく。

「悪ィ、寝てた……」
「いいえ、こちらこそ起こしてしまってすみません。もう少しゆっくりなさってくださいな。せっかくのお休みなんですから、この機会に羽根を伸ばしませんと」

先生に貰ったお小遣いで土方さんが腰掛けるマッサージチェアにお金を投入する。そして自分の分も投入しようとして、土方さんに止められた。曰く、「お前の座高でツボに届くのか?」とか。なんだかすごく失礼。無視してお金を投入する。背中をごろごろしたローラーでもみほぐされる。いい気持ちだ。

「知らないんですか?最近の良いやつには使用者の身長にあわせて自動で位置を調整してくれる機能があるんですよ」
「そいつァ便利なこった」
「あ゛ーーーー気持ちい゛ー……」
「その顔でおっさんみたいな声出すな」

土方さんと他愛もない会話をしながら目を閉じる。これは土方さんが寝ちゃうのも分かる気がする。思えば今朝とかすっごい騒がしかったし、朝ごはんの後暴れたし、ほんの少し疲れてるな。ちょっとだけ休もう、ちょっとだけ……。何度か体が浮くような感覚の後。意識は眠りへと。

「ひゃん!」

首筋に何かひんやりした硬いものを押し付けられて悲鳴を上げながら飛び起きる。半歩先くらいの位置にしてやったりといった表情の土方さんが。彼の手には瓶入りの牛乳。よく銭湯で売ってるような、紙のフタがついてるアレだ。くださるというので、ありがたくいただく。美味しい。

「あ、おはようございます」
「おう」
「どのくらい寝ていましたか?」
「20分くらいだな」
「そんなに!?」
「久しぶりの快眠だったろ」

土方さんの言葉の意図が伝わらず、ん?と首を傾げる。快眠といえば、今朝のあの目覚めまではそうだったのだけども。

「夢、見なかったんじゃないか?」
「それは今朝もですね。こころなしか、いつもよりもすぐしゃっきりしたような」
「それ総悟の殺気だろ」
「ああ……」

思い出しただけでもゾッとする。沖田さんは普段は飄々としているけれど、いざ本気になるとおっかない人だ。土方さんも怒らせるとおっかないけれど、それとはベクトルが違うというか。土方さんが雷とか炎とかその類なら、沖田さんは……こう、もっと形容しがたいものなイメージ。例えば、軒下を歩いててふと見上げたら今にも落っこちそうな氷柱がぶら下がっていた時の感じ、とか。あの目を見ると心臓を冷たい手で掴まれたみたいな気分になる。自分に向けられていないのにそんなんだから、いざ自分が標的になったらそれだけでショック死してしまうんじゃないかしら。

「悪ィ。休憩中にする話でもなかったな」
「いえ、私ってまだまだだなあって思っていたんです」
「アイツの殺気真っ正面から受けられる奴なんてそういねェよ……」

しみじみとつぶやく土方さんは苦労性だ。
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