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バレンタイン作戦!

私はXANXUS君のお部屋の図書室にあるやつみたいな日付を差し替えるタイプのカレンダー(日付を入れ替えるのはもちろん召使の人だ)を見て頭を抱える。カレンダーが示す日付は2月13日。2月のイベントといえば明日のバレンタイン。そう、私の目下の悩み事は、XANXUS君にあげるチョコレートだった。

幽霊だしお金がないので買うことはできない。買うこと自体は頼めばできる。問題は頼む人がXANXUS君当人しかいないということ。そんなあげる人に買わせるなんてあほらしいことはしたくない。買えないなら作ればいいのだけど、そこにも問題が立ちはだかる。

幽霊は基本的にものを食べない。そもそも既存の物質で構成されてない私たちにはその必要がない。食べれると『思い込め』ばいけるけど味覚はあくまで自分の『思い込み』だ。そこまでする意味を感じないしその味覚は記憶によるまがい物であって実際どのような味なのかはさっぱりわからない。つまり、味見にはならない。味見ができないということは、それがおいしいのか不味いのか見当もつかない物体をXANXUS君に渡すということだ。

そのことを、夜中にカルヴァドスとその他の材料を少々拝借して(チョコレート程度の量ならお酒入ってても大丈夫でしょ)サブの厨房に忍び込んで、チョコレートを作り、ラッピングまで済ませ、XANXUS君のお部屋に持ち込んだ後になって気が付いた。気づいてしまったときに頭を抱えてしまったのは言うまでもない。どうしよう。マズいチョコレートなんて渡したくないし。かといって自分で自分の作ったチョコレートを食べるなんて空しい。

味見は生きている人間にしかできない。でも、XANXUS君以外に頼める人いないんだった。9代目は忙しそうだから頼むのは気が引ける。保安上の問題もあるだろうし。

この時ふと思いついた。生きている人間の口に残り物のチョコレートを投げ込めばいいんじゃないかと。

首を振ってよぎった案を消す。そんなことしたらボンゴレ中が大騒ぎになっちゃう。ポルターガイストごっこをした時でもXANXUS君にすっごく怒られたのに。じゃあ、どうしよう。出来ればおいしいの渡したいなあ。マズイとか言われたら立ち直れる気がしないよ。マズイって言われるだけならいいけど、投げ捨てられたらショックで成仏できそうな気がする。あれ、でもXANXUS君とか世の中の流れとか私自身にとっては成仏した方がいいのか。でもそんな形は嫌かなあ。

「う〜ん、考えても答えが出ないよ」
「なんのだ」
「え、チョコレート……ってXANXUS君!おかえり!えっと、これはね、チョコレートを作ってたとかそんなんじゃないから」

考え込んでいる間に帰ってきたのか、XANXUS君がソファにどっかりと座っていた。彼は水差しからグラスに注いだ水を飲みながら、膝を抱えて考え事をする私を見ていた。気配が消せるXANXUS君はこうして私の不意を突いてくることが多い。わざとじゃないのは知ってるんだけどね。びっくりする。

というか、やばい。動転して墓穴掘っちゃった。いやもう埋まってるけど。これじゃあチョコレート作ったって言ってるようなものだよ。なんというおまぬけ。サプライズのつもりだったのが台無し。

「寄越せ。食ってやる」
「やだ」
「寄越せ」

しばらく押し問答が続いた。マズイかもしれないチョコレートを渡したくない私、なぜかチョコレートが食べたいらしいXANXUS君。彼に一歩も譲る様子はない。そのうち私はチョコレートを持って逃げようとしたけれどXANXUS君に首根っこを掴まれて、両手がふさがってる私は完全に身動きが取れなくなった。

「分かった。……味見してないから多分おいしくないよ?」
「さっさと寄越せ」

えーい!ままよ!
私は腹をくくってそっと箱と残りのチョコレートを差し出す。XANXUS君は首根っこからぱっと手を放してチョコレートを受け取った。そこで私は力が抜けてへたり込んでしまった。まだだよ!まだXANXUS君はチョコ食べてないよ!意外にも彼は丁寧に包装紙を解いていく。丁寧に解いてくれてうれしいなと思った。

XANXUS君の少年らしさを残した手がチョコレートを一粒つまみ上げたところで再び緊張する。マズイとか言われたら立ち直れる気がしないよ。XANXUS君がぱくりとチョコレートを食べた。咀嚼、嚥下。私はその流れを固唾を飲んで見守っていた。

「カルヴァドスのVOか。それもボンゴレ所有の果樹園の林檎からつくられた」
「すごい。なんでわかったの?」
「林檎の香りと味の若さだ」

XANXUS君は一粒食べただけで何のお酒を入れたのか当ててしまった。すごい。続けてちょっと眉をひそめていった。

「XOの方が好みだがな」
「VOとかXOってなに?」
「ブランデーの熟成年数によって分けられた等級みたいなもんだと思え。VOが一番下でXOが一番上だ」

知らなかった。何の気なしに選んだお酒だったから。知ってればXOのほう使ったんだけどな。

「等級によって味は変わるの?」
「一般的にVOよりもXOの方が香り高い上に味わい深くなる」
「へえー」

XANXUS君は他にも、ブランデーは産地・使う材料によってコニャック、アルマニャック、カルヴァドスと分類されること、そしてカルヴァドスはフランスのノルマンディー地方の林檎から生産されたものを指すのだということを教えてくれた。彼の講義中にチョコレートは食べつくされてしまった。食べられずに投げ捨てられる運命にはならなくてよかった。

「あれ、お酒止められてる割には詳しいね」
「教養だ」
「隠れて飲んでたりしたでしょ」
「るせえ」

この返事は肯定だ。私は目を細めた。まったく、育ち盛りなんだからお酒飲むよりも牛乳飲もうよ。その方がきっといいよ。まだお酒飲めないXANXUS君に洋酒入りのチョコを渡した人間が言えることじゃないかもしれないけど。小言を言おうとした私を遮るようにXANXUS君は早口で言った。

「チョコレートそのものは悪くねえ。酒入れるならいいの使え」

そう言って彼は肩越しにチョコが入っていた箱を放り投げた。思わず箱を目で追うと、上に凸の放物線を描いてゴミ箱に入った。お見事。私はない手をたたいた。
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