補給班長の業務日誌 | ナノ

補給班長の業務日誌

Postbellum
10年後での世界の情報が伝えられ(ボスに首から下は云々言われたことは一生忘れないだろう)、なぜか6年前倒しでヴァリアーに徴用されてから、数ヶ月。目まぐるしく日々は過ぎていた。

沢田綱吉殿の継承式でボンゴレとシモンが交戦状態になってその後無事和解したり、ヴァリアーの幹部候補スカウトに幹部御一行様がフランス・ジュラ地方に向かってそこでひと悶着があったり、細かいことまで挙げればきりがないほどに、いろいろなことがあった。

私はボスに命令されて日本で行われる虹の代理戦でのボス及び幹部やその他隊員の後方支援を行うべく、彼らに同行していた。留守番は部下に任せ、何か困れば時差を気にせずにかけろとはいっておいた。果たして、一度もかかってくることはなかったが。

代理戦でもいろいろあった。本来戦うべき時間帯にボスは眠っていたり、ルッスーリア隊長お手製のお汁粉を一気飲みしてお餅を喉に詰まらせたり、雲雀恭弥氏に同調して時計を壊そうとしたり、ボスは本当に自由だった。最終日を前にして沢田綱吉殿がボスやほかのチームの者を招集して会議を開いたときはいたく驚いたものだ。

波乱万丈の数日間だった。

最終日に、ボスとスクアーロ作戦隊長が復讐者と交戦し、ボスは右腕の切断、止血のために死ぬ気の炎で傷口を焼いたことによる重度の熱傷、加えて足に負傷。スクアーロ作戦隊長は剣を折られ、心臓を貫かれたという。その知らせを聞いた瞬間、凍り付いたように動けなくなった。顔から血の気が引いていく感覚は私の中にはっきりと刻まれている。私は震える声で本部に居残っている隊員たちに報告を済ませ、搬送先の病院に駆け付けた。待合室でのことは全く覚えていない。ベルフェゴール隊長曰く、見てられねーくらいひどい顔色、だったとか。


それが一週間ほど前の話だ。私は今、窓も開いていないのに涼やかな風を伝えてくる病室に立っていた。風の吹き込む方向を見ると青い空と住宅街が丸く切り取られた壁から見える。反対側の壁を見ると何部屋かぶち抜いて何かが突き刺さった跡が見える。空が見える方がうちのボスの獣帝銃の炎で、もう片方はあっちで寝ている雲雀恭弥氏の鎖分銅だな。

本来は清潔感漂う白色だったはずの病室はところどころクロスがはがれている上に、穴が開いているし、一部は焦げていた。窓ガラスも残らず吹き飛んでしまっている。私は病室の修繕費が一体いくらになるのか、損害賠償はいくら請求されるのかと頭を痛めた。目的を果たすより先にお話しすることがありそうだ。私はボスのベッドの脇に立った。彼はちらりとこちらを見ただけだった。

「ボス、今月の我々は、ボスを始めとする幹部の皆様の負傷により、残りの隊員達のみで積極的に任務を請け負うことは難しい状況にあります。現に隊の収入は前月より20パーセント減少しています」
「役に立たねえカス共だ」
「……加えて一般隊員らの日本遠征の航空機のチャーター代、物資の空輸に用いた我々が保有する輸送機と幹部専用機の燃料代に空港使用料、一般隊員を含めた全員の食事代、医療費、さらに代理戦中に崩壊したホテルの修繕費など、現段階の支出を合計すると前月比150パーセントととなりました」
「……ああ」
「会計は辛うじて赤字ではありませんが、病室の修繕費まで加えてしまうとおそらく今月は」
「わかった。オレが壊した分の修繕費はオレが持てばいいんだろう」

適当な返事に不安を感じるが、分かってくださればそれでいいかと、この病室を訪れた本来の目的を果たすことにする。紙袋から行きしなに買った花束を取り出す。スタンドはさすがに邪魔になるから私でも抱えられるサイズだ。その代わりに花は厳選された、花に疎い私でもきれいだとわかる品質のものにした。いいじゃん、と花束を見たベルフェゴール隊長も言っているし多分大丈夫だ。ちなみに彼の頭の上には無事呪いが解けたマーモン隊長が乗っかっている。

「こちらヴァリアーの全隊員からのカンパを募ってその一部で買った花束です」
「ふん。適当に飾っておけ」

カンパを集めようと提案したところ、日本遠征部隊の隊員達だけでなく、本部の隊員や全世界の支部に散らばる隊員まで幅広い層から資金が集まった。予想以上に多く集まってしまったので最初は慌ててしまったが、この形に落ち着いた。暴君でもなんでもなんだかんだ言って慕われているのだとその時に強く感じた。他人のことなのに柄にもなく感動してしまいそうになったのも覚えている。

そんな隊員の総意は、少なくとも気に入られなかったわけではないらしい。投げ捨てられたらどうしようと内心びくびくしていた。ほっと胸をなでおろした。
作戦隊長にはボスの花束よりも心持ち控えめサイズのそれを手渡す。

「スクアーロ作戦隊長にも」
「お゛ぉ。感謝するぜぇ。カス共にもそう言っておけぇ」
「喜んでいただけて幸いです。ほかの隊員にもそのように伝えさせていただきます」
「お花は私が飾るわねぇ。うふふ、美しく活けてあ・げ・る」

ルッスーリア隊長がそのたくましい両腕に二つの花瓶を抱えて、足取りも軽く病室の外へと向かう。私ではセンスがわからなくて全部他の隊員に任せてしまったのだが、何とかなったようだ。
次いで鞄から一つの薄い冊子を取り出す。それをボスと作戦隊長に手渡した。作戦隊長の冊子がやや薄いのはご愛敬だ。なお、彼らは入院中の身なので酒類は一切入っていない。二人からいったいなんだ、という視線を受けながら説明をする。

「こちらはカンパを使って購入した物品、主に食料ですが、その目録になります。管理はルッスーリア隊長にお願いしてありますのでほしいものがありましたら隊長にお願いします」
「ふん。悪かねえ」
「気が利くなぁ!」
「では、私はこれにて失礼いたします。どうか、ご自愛くださいませ」

さっそくパラパラと冊子をめくるボスと作戦隊長に一礼して病室を後にした。
ちなみにレヴィ隊長は私がいる間、昏倒していた。おそらく、ボスの点滴を自分が請け負うという無茶をしたせいだろう。まあ誰も彼に触れないけど息はしているから多分大丈夫だ。

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