補給班長の業務日誌 | ナノ

補給班長の業務日誌

In the longest day in history! 05
全身の痛みに目を覚ました。今まで夢を見ていたらしい。ここヴァリアーにやってきて上司を密告して一人になって二人になって、今に至るまでの。
たった10分―これでもボス曰くかかりすぎらしい―でミルフィオーレの前線司令部があった古城を陥落させてしまった彼らの後に続いて、私たち後方支援部隊は速やかに展開した。展開を終えた直後、4500ものミルフィオーレの大軍に古城を包囲されたのだ。そしてヴァリアーを包囲殲滅せんとする部隊の指揮官が6弔花の人間らしいと伝えられた。
ミルフィオーレにとって最初の司令官は我々をおびき寄せるための、いわば誘蛾灯だったわけだ。まあボスもそれにわかってて乗った節がありそうだが。

私は壁を床にして気絶していた。もともと狭い空間は大量の荷物が崩れたことによっによってさらに狭くなっていた。隣のイベリコ豚の冷凍肉に、なぜか吻のそのままついたカジキマグロが突き刺さっているのを見てしまってぞっとした。少し角度がずれていたらキリのように鋭く尖った吻が自分の心臓に刺さってた。
ボスが牛フィレ肉を食べたいと暴れているようだったので、展開と各部隊に物資の分配も終わった私がリーファーコンテナの中を探していたのだ。そこに突然、突き上げられるような激しい衝撃と横向きの力が私のいるコンテナを襲った。そして私はなすすべもなくコンテナの中を転げまわり、そのうちに気絶した。敵の何らかの兵器が城ごとコンテナを吹き飛ばしたとみるのが正解だろう。

あらかた経緯がわかったところで、脱出できないか周りを見渡す。こんな状況だ。外がどうなったのか気になるが、それよりも先に自分の安全を確保せねば。

流石は対炎性のナノコンポジットアーマーの特注リーファーコンテナ。ごろんごろん転げまわっただろうにへこみはあるが穴一つ空いてない。どうせ室内だしと迂闊にも扉のロックをせずに入ったせいで扉は締まっているし、何より冷凍されたいろんなものが私の上に積み重なっているせいで動けない。どかそうとすれば荷物は私の上に雪崩れるだろう。素晴らしくタチの悪いジェンガだ。

おまけにこんな時まで電気系統は死んでいないらしく、冷凍装置が稼働している。窒息しない代わりに温度設定がマイナス20度なので死ぬほど寒い。耐寒仕様の隊服に防寒具を着用しているが、凍死するのは時間の問題だろう。現に指先はすでに固まって動かなくなっていた。気絶している間に冷えたのだろう。9代目に冷凍されたボスの気分がなんとなくわかった。

さらに悪いことに、外部に自分がいることを知らせようにも、非常ベルは手の届く範囲にないし、無線機は転げまわっている間に落としたようだ。私が今ここにいることを知る隊員も、生きているかどうか。

この状況は非常にまずい。私はボスみたいに頑丈じゃないから冷凍されても復活できないしこの場合はボスでも無理だ。低体温症からの蘇生の条件は全身が速やかに冷凍されることだ。決してこんなじわじわ死んでいくことが条件ではない。

ああクソ、寒い。このままでは本当に死んでしまう。私が死んだらヴァリアー回るのか?私が風邪でたった3日休んだだけで、上へ下への大騒ぎになったこの組織は大丈夫なのか?あれから一応、部下の教育はしていたが、補給は本人の才覚がものをいう領域が少なからずある。生まれ持った才能はどうしようもない。だから才能が足りない分を経験で補うのだ。しかし、あの二人はまだまだ経験不足だ。そうなると、当面の間補給も含めて作戦の指揮を執る羽目になる作戦隊長の胃に穴が開くんじゃないか?

ああヤバい。肘も固まってきてる。それに睡魔の優しい手に頭を撫でられてる。心配事は山ほどあるのに体は音を上げてしまっている。もう無理かもしれない。しばらくの間うとうとしては、頭をコンテナにぶつけて強制的に意識を覚醒させることを繰り返していた。けれど、そんな無理が長く続くはずもない。次第に眠っている時間が長くなっていた。

死にかかっても首から上だけは助けてくれるんじゃなかったのかクソボス。
私は死にかけているその時になって、生まれて初めて心から祈った。神でも仏でもなく、ボスに。

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