補給班長の業務日誌 | ナノ

補給班長の業務日誌

In the longest day in history! 03
場面が変わった。これは、私が班長になってから4年が過ぎた頃だ。

4年でいろいろなことが起きた。ボスが髪の毛をおろしたし、ルッスーリア隊長の頭には赤いモヒカンが追加されたし、ベルフェゴール隊長の髪型も変わったし、スクアーロ作戦隊長の髪はさらに伸びた。霧の守護者も入れ替わってしまった。私は二人の部下を従える立場になってしまった。何よりも驚くべきことは、あのボンゴレファミリーを上回る勢いのミルフィオーレファミリーが現れて、アルコバレーノ達を抹殺し、ボンゴレ本部を襲撃し、9代目が死に、そのファミリーと話し合いに出かけたお優しい沢田綱吉殿は問答無用で射殺された。

物資の調達ルートに対する『何者かの』嫌がらせは頻繁に起きていた。荷が盗難にあいかけたり輸送部隊が警察に追い掛け回されたり爆破されかけたり……優秀なヴァリアー輸送部隊のおかげで一度も物資が紛失したことはなかったが。ボンゴレ史上稀に見る有事に突入して、仕事は指数関数的に増えているのに、前線にも後方にも人はほとんど増えない。前線の人間が死んでいる今はむしろ減っている。沢田綱吉殿の超穏健派としてのやり方がここにきて完全に裏目に出てしまっていた。多少人員を減らされても平時はうまく回っていたのだが……。

阿呆みたいに増えた仕事がやっと一段落ついて、休憩に入ろうかというところで補給班室の扉が乱暴に開けられた。扉を開けた人間に抗議しようとした部下の一人が、凍り付いたように動けなくなった。ボス相手だと無理もないことだ。さて、ボスが用があるとすれば、やっぱりここ最近頻繁に行われる首脳会議の内容だろうか。

「聞け、ドカス共。5日後にボンゴレ連合ファミリーはミルフィオーレ主力部隊に奇襲攻撃を仕掛ける。もちろんオレたちヴァリアーも参加する。てめえらはそのつもりで物資の調達を行え」
「作戦の概要は」
「指示があるまで指定する座標で待機してろ。お前らはカスを殲滅次第速やかに展開だ」

そういわれてすぐにボスの意図が分かった。ボスは端からボンゴレ連合軍に期待なんぞしていないのだ。それもそうだ。超精鋭部隊ヴァリアーでも物資の調達をことあるごとに妨害されて、かけなくてもいい手間をかけさせられて嫌な思いをしているのだ。連合ファミリーも同じような、より深刻な被害を受けているだろう。兵站がボロボロの軍隊は一回限りの喧嘩には勝てても何度も戦う戦争には勝つことができない。軍隊は最良のコンディションで、作戦の完遂させるために行動し続けられなければならないのだ。

「了解。本部でプールしている物資を含めれば5日で調達及び各部隊への分配が可能だと思います」
「すぐにカスザメへ補給計画書を上げろ。細かいところはアイツと話し合え」
「了解。わざわざボス自らありがとうございます」

では仕事にかかろうかとまず作戦隊長と連絡を取るために内線電話の受話器を上げる。なぜかボスはその場を動かない。なにかマズイことをしてしまっただろうか。首を傾げたが、ボスは何も言わない。内線にはスクアーロ作戦隊長の直属の部下が出た。彼曰く作戦隊長は不在らしい。仕方ない。大雑把に骨組みは決めておくか。言伝を残し、電話を切る。するとボスが口を開いた。

「てめえは首から下は要らねえ人間だな」
「は?」

思わず上司であることも忘れて間抜けな声を上げてしまった。何を考えているのかわからない人だといつも思ってはいたが、これほどとは。そう思う私をよそに、二人の部下は理解できてしまったらしく、少し間をおいて激しくむせる音が聞こえてきた。とりあえず褒められてないのだけはよくわかった。机の上に物資のリストを広げた。顔は上げない。

「字はきたねえし、化粧っ気もねえ。おまけに料理を錬金術と勘違いしてやがる」
「前2つはわかりますが、一番最後は心当たりがないです」

料理のフレーズを聞いた瞬間、部下二人がヒッと小さく声を上げた。そういえば前に二人に料理をふるまってからというものの、ご飯をおすそ分けしようとすると全力で逃げられている。何故だかわからないが。

「昔ベルに飯をつくっただろ。あれのせいで奴は3日食中毒で動けなかった」
「私は平気だったので私のせいではないと思いますが」
「『アイツじゃなかったらその場で殺してたくらいに不味かった』、らしいぞ」

あれでも会心の出来だったのだが、どうやら危機一髪だったらしい。出自は王族だというベルフェゴール隊長の味覚が繊細なのか、一族代々軍人である家出身の私の味覚が人とずれているのか。まあいずれにしても、私の料理が原因ならば隊長には申し訳ないことをした。今度遅い見舞いに行こう。……やっぱりカエルの足入れたのがまずかったのか。

「もし死にかかってても、最悪、首から上だけは助けてやる」

ボスはそう言い残して背中を向けた。彼はそのまま扉を開けて出ていってしまう。私は扉が閉まった後もしばらく扉を見つめていた。

弱者は消す。それが世間一般の法律の大体を無視するヴァリアーでの、唯一かつ絶対的な掟だ。その掟が適用されるのはなにも前線で戦う暗殺者たちだけでなく、我々のような後方において支援を行うものにも。だから我々も最低限の自衛能力は持っているし、指輪と匣兵器も支給されている。幸運なことに支給されてから今まで、これらの兵器を使う機会に出会うことはなかったが。

ヴァリアーの掟を誰よりも知っていて、ときには自らの手で掟を破ったものへの制裁も行っていた彼が、そのようなことを言うのは非常に珍しいことだった。一体全体どういう風の吹き回しかと思ったが、やるべきことを思い出して慌てて取り掛かった。今はとりあえず時間がない。急がなければ。

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