夢か現か幻か | ナノ
The legacy of knowledge
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コンテナで入り組んだ港の一角。そこにデカデカと居座る倉庫。バーコード管理でもしなけりゃ何が入ってるかなんて絶対にわかりっこない広さの倉庫は外壁からしてでっかい。その巨大な白い外壁をスクリーン代わりにして、檻に閉じ込められた哀れな隊士達が大写しになっている。

外壁に映る彼らの背景を見るに、檻というよりは箱と呼ぶべきか。金属製の箱の内壁は銀色。アルミニウム……いや、皆が乗ってもヘコまない丈夫さと色合い的にステンレスの方かな。細かい溝は空気と触れる体積を増やすためのものか。近藤さん達はどこに閉じ込められているのか分かっていないけれど、映像だけでも手がかりはありそうだ。

ところで、このスクリーンは遠目からでも結構目立つな。マスコミに嗅ぎつけられたりやしないだろうか。

「うちの隊士をあんなお粗末な罠にかけるなんてなーにやってんだ土方さん。責任とって切腹してくだせェ」
「出動だって決まった途端、いの一番に飛び出そうとしたお前に言われたくないんだけど!?」
「部下の失敗は上司が責任取るもんでしょ」
「抜かせクソガキ!俺が切腹ならてめえも道連れだ!」
「アンタと心中なんて御免被らァ。死にてーなら一人でどうぞ。そういうのは年功序列なんで。俺ァ一番最後でのんびり逝きます」
「いつも以上によくお口が回るなぁ、総悟ォ……」

拳をブルブルと震わせる土方さんを他所に、こちらの手駒を冷静に考える。まず最大の戦力兼指揮官の土方さん。次いで斉藤隊長。ガワは間違いなくトップクラスだけど中身が駄目なので二線級以下のあたし(in 沖田さん)。その他の隊士が十数名。あ、それと山崎さん。彼は地味だけど監察なので、いなければ回らない縁の下の力持ちだ。これらの戦力で近藤さん達を救出しなければ。

「で、どーします」
「近藤さんが居るんじゃ見捨てるわけにもいかねェ」
「じゃあアレの言う事聞いて土方さんが切腹ですかィ」
「まだ犯人からの要求出てねーだろ」
「俺が犯人なら土方さんの切腹を真っ先に上げます」
「なら俺は初っ端にお前の首を斬るわ」
『やめてェ!トシも総悟も俺のために』
『来たな真選組!!!』

近藤さんの魂の叫びに被せるように即席の銀幕の主役に躍り出たのは三番隊で何度か見かけた顔だ。確か要請もこの男の名前で出されていなかったか。名前は――確か轟一之介。

『三番隊隊長に嗅ぎつけられた時にはもう終わりだと思ったが、うまく行った!!』
「終兄さん、気付いてたんですか」
「Z〜〜〜〜」

斉藤隊長はマジで寝てるとしか思えない寝息を立てている。いつ見ても寝てるようにしか見えないけど、もしや本当に寝てる……?斉藤終という青年は真選組で最も謎多き人だとあたしは勝手に思っている。噂によれば三番隊は沈黙の部隊で、離反者の粛清が任務だとか。でもいい人なんだよな……。すぐ寝ちゃうけど。

『土方沖田斉藤、貴様らを逃した事は痛手だが、かえって好都合だ。俺の要求は唯一つ!現在不当に獄に繋がれておる『白虹党』の同志を即座に解放する事だ!』

『白虹党』。確か、真選組が摘発した攘夷組織だ。入院中だったから詳しくは知らないけど、そこそこ資金を持った組織だったと聞いた。

要求は同志の解放。テロリストにありがちな要求だ。しかし、ここは君主が降臨していようとも法治国家だ。『人名は地球よりも重い』などと嘯いて超法規的措置とやらでも取らない限りは、そのような要求が実現される事はないが……。

しかし、土方さんや沖田さんにとって最も優先される人、近藤さんが轟の手に落ちている。かといって連中の望むようにすれば、幕府のメンツは丸潰れ。幕府のお偉方は自分達の面目を潰した真選組を許しはしないだろう。良くて公職追放。悪ければ近藤さんの処刑、といったところかな。

従っても死。従わなくても死。交渉の余地ねーじゃん。

「……俺が交渉で引き伸ばす。お前らは近藤さん達がいる場所に当たりをつけろ。この港の中に居るはずだ」

端っからこの交渉は決裂しているので要求に従う道理はない。土方さんの言う通り、方針は実質一つしかない。それ即ち近藤さんの奪還だ。ならば、彼らはどこに居る……?

背景は暗くてわかりにくいが鉄板に囲まれた箱のように見えた。しかも細長いし、数十人が入るには少し狭い。それを内包する箱にあたし達は囲まれている。視線だけで周りを見渡す。おそらく自分達を囲んでいる鉄の箱、コンテナだ。

しかもあのステンレスを惜しげもなく使った内壁は、熱伝導性を重視したものだ。多分普通のコンテナじゃない。リーファーコンテナだ。

出動した隊士の数と押し込められている人数は合致している。……分けて入れないなんて迂闊だな。仲間が捕まり、斉藤隊長に目をつけられたから、なりふり構わなくなっていたのか。

おそらく時間は経っていない上に少数による犯行と考えられるので、大人数を拉致してそう遠くには行けないハズ。そしてリーファーコンテナを置ける区画はそう多くない。

一つ一つは大した情報じゃなくても、組み合わせれば大きな手がかりになる。

脅迫材料にするために絞り込みの材料を与えるとは愚の骨頂。脅すためならコンテナを海に突き落とすモーションをかけるだけで十分なのだ。

まあそれはそれで、直ぐに実行に移せるようにガントリークレーンやトップリフター型のフォークリフトの側か、人力でも海にすぐつき落とせる場所にあるかのいずれかなので、どの道コンテナに入れたのが間違いだったな。

この推理を土方さんに伝える。犯人から見えないように顔を伏せて、低声で話す。土方さんは交渉が終わったところ。重罪人の釈放には時間が必要だとして、可能な限り時間を稼いでいた。何事にも手続きが必要で、手続きには必ず書類がついてくる七面倒な官僚主義バンザイくたばれ。

「土方さん、俺、近藤さんの居場所の見当がついたかもしれません」
「お前、分かったのか!?」
「近藤さん達が閉じ込められてんのは、ドライコンテナ、普通のコンテナじゃありません」
「確かに、あれァ普通のコンテナじゃねーな」

それは土方さんにも心当たりがあったようだ。密輸入品がみっしり入ったコンテナに出くわす機会もそれなりにあるから、それで見慣れているのだろう。

「ステンレスのレールが張り巡らされたあのコンテナはリーファーコンテナ、要は冷凍用コンテナです。冷凍機の電源を入れて脅迫するために、わざわざあんなもんを使ってんなら、必ず電力が供給されてるってもんでさァ」
「お前の言いたい事が分かったぞ。港の中で電源がある場所は多くない。即ち、近藤さんが居る区画は限られてるってことだな」
「そうなりやす。もし仮にその区画になかったとすりゃあ、電源車に繋いであるコンテナが怪しいですねィ」
「何だお前、今日は冴えてるな」

そりゃあ、中身はどちらかと言うと頭脳労働タイプですから。そんな事は口が裂けても言えはしないので、沖田さんらしい顔を崩さない。

「問題は荷主に問い合わせする手間だな」
「そりゃ税関と連携した人海戦術でしょ。中に人がいんなら外から叩きゃ内側から叩き返されるでしょうし、それで所在確認するしかねーってもんです」
「それで居るって分かったら……」
「扉に爆発物が仕掛けてないとも限りませんぜ。俺が土方さんをコンテナに閉じ込めんならそうします。開けた瞬間ドカン、でさァ」
「……よし、山崎、爆発物処理に長けている隊士を応援に呼べ」
「はい!」
「長島、羽島!税関と連携して連中に化けてリーファーコンテナがある区画を洗え。電源車が近くにあるコンテナも忘れるな!山崎も連絡が済んだら長島達に合流しろ!」
「はい!」

山崎さん達の返事と同じタイミングで、土方さんを奇襲する。ここのところ敷設した地雷がことごとく不発だった。これではノルマが果たせない。おっかしいな、冷蔵庫に大量の下剤入りマヨが仕込んであるはずなのに土方さんはなぜか回避しているんだ。

沖田さんに課せられた土方さんへの嫌がらせノルマ消化もあるけれど、それ以上に自分達を見張っている犯人の目をそらす目的もあった。このトンチキ騒ぎの隙に、彼らはそろりそろりと暗闇の中に消えた。

「総悟」
「なんですか」
「もうちょっとやりようあっただろ」
「花火上げんなら派手な方がいいでしょ」
「終わったら覚えとけよ……」

アフロ頭になった土方さんは不満げな顔で煙草に火を付けた。

『さて、貴様ら、手続きとやらは済んだのか!?』
「いや、まだだ。悪ィな。官僚主義ってのは時間がかかるんだ。もう少し待っててくれ」
『……埒が明かんので我らが一方的に期限を定めよう』
「ほォ?何をするつもりだ?」
『見れば分かる』

轟と入れ替わるように、近藤さん達が銀幕に戻ってきた。双方向通信なのか、こちらのドタバタのみがあっちに伝わっていたらしい。近藤さんは心配そうな顔だけど、それ以上に憔悴しているような。後ろの隊士達も力なくうずくまっている。嫌な予感がする。冷凍機だけじゃないなコレ。

『トシィ、総悟ォ……』
「近藤さーん、大丈夫ですかー?」
『さ、ざぶい……』
「お前の予測通りだな」
『それに……なんだか、気持ちが、わるい……』
「……酸欠?」
「何?」
「しまった。あれァただのリーファーコンテナじゃねェ。土方さん、近藤さんが閉じ込められてるのはCAコンテナでさァ」
「総悟、いつからコンテナ博士になったんだ?」

父親がコンテナオタクだったからです。なんて言えるわけもないので無視して自分の話をする。

「CAコンテナは酸素を抜いて窒素を中に充填するコンテナでしてねィ」
「つまり、このままだと近藤さんが窒息するって事か」
「こらァ思ったより時間の猶予がないかも」

酸素がなければ人間は数分で死に至る。閉所に多人数が取り込まれ、しかも酸素量が少ないと来た。マズイな。場所が絞り込めて、コンテナも更に限られてきたけれど、それでも時間が圧倒的に足りない!!

今は沖田さんの代わりにあたしが近藤さんを守らないといけないのに。……焦るな、今はよく考えろ。このままだと沖田さんに合わせる顔がなくなってしまう。だから落ち着いて考えなければ。

「CAコンテナに目印かなんかないのか?開封作業の時に、普通の冷凍コンテナと見分けがつかないんじゃ、職員が危ないだろう」
「確かにCAコンテナには専用のラベルが貼られます。でも、相手は港の使用料も払ってるか怪しいテロリストですぜ?」
「それもそうか。……なァ。冷凍も、酸素を抜くのにも、電力を使ってるんだよな」
「そうですねィ」
「一部の区画の電力を順番に落とせば、近藤さんの居場所が更に絞られないか?」
「確かにコンテナが止まるはずですがねェ。いいんですかィ?そんな事すりゃあ、荷主がウチに怒鳴り込んできますぜ」
「近藤さんがいないとわかりゃすぐに復帰させりゃいい。それに――、事故ならしゃーねーだろ?」

悪人よりも悪人らしい笑みを浮かべる土方さんが提案してきたのは、港湾局まで屯所どころか警察庁に怒鳴り込んできそうな方法だけど、背に腹は代えられない。人命は地球よりも重たいのだ。

「よし、お前らは先に行った奴らに追加情報を送れ、それから港湾局脅して順番に停電させろ。近藤さんのところが落ちたら無線で合図を送る。そん時はその場で待機だ」
「了解!」

土方さんにバズーカで奇襲する。もうもうと立ち込める土煙。そして視界が悪い中でも容易に居場所を割り出せる土方さんの怒号。煙を切り払うような太刀筋で、土方さんの頭上を襲った。

このくらい目立つやり方なら、犯人達も嫌でも注目するだろう。その後で多少頭数が減っていても気にもとめまい。

近藤さん達を五体満足で発見し、なおかつ自分が優位だと勘違いして天狗になってる間抜け共の鼻をあかすのだ。
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