something | ナノ
(リボーンと血界戦線のクロスオーバー)
(続くかもしれないし続かないかもしれない)

まるでパニック映画に出てきそうな風体の生物が我が物顔で地を這い歩き空を飛んでいる。街は霧のロンドンもかくやという程に霧に包まれていて、青空だろうが曇り空だろうが関係なく空は見えない。街の中心部には巨大な木が宙に根っこを伸ばしていたりする。そんな奇っ怪極まりない光景の広がるそこは、平穏の遠い、異界ビヨンドと人界の交わる街、ヘルサレムズ・ロット。略してHL。そこは、3年前までニューヨークと呼ばれた街。

この街の平穏は吹けば飛ぶようなささやかなものだ。そしてこの街には平穏を吹き飛ばすに足る風はいつでもどこでも吹いている。人間には到底行使できないと思わせる魔導、人間の発想では絶対に思いつかない尚且つ倫理的にもヤバそうな超兵器、人間を遥かに超える寿命のものがウンウン言いながら生み出した呪いと化け物。それまで私たちが物語の中にしかないと思っていたものが街中を飛び交う。うっかりすれば街の人間だけじゃなくて、この街そのもの、果ては人界まで吹き飛びかねないものばかり。それを防ぐべく、日々奮闘しているのが、ライブラ。

天秤の名を冠するその組織は、トップの人間のデータはもちろん、構成員・本拠地・予算・調達先……あらゆる情報が隠されており、外部の人間でその全貌を知るものはほぼいない。そしてまるで針先に乗ったかのように不安定な世界の均衡を保つ彼らは、その均衡を崩そうとする勢力とはかなり仲が悪い。故に、その貌の一端を示す正確な情報が出れば、億単位の値段がつく。

与えられた情報を飛行機の中で反芻する。こんな仕事は本来であればボス自ら出向くか、そうでなくとも右腕の獄寺くんが出向くべき案件だ。そんな仕事にボス――10代目の命題として私が行くのは少しばかり荷が勝ってないかな。

今度の仕事はそのライブラとの話し合い。人界に漏れ出た超常犯罪者共を狩ること、というのは私の所属する組織ヴァリアーの目的であり、本来の業務。ボンゴレファミリーの目的は一つ。今も昔も自分たちの手の届く範囲の人を守る。これはどれだけ大きくなろうと汚くなろうとも変わることはない。

人を守るためには、銃で脳天を撃っても死なないマフィアとか、得体の知れない魔法とか、よくわからないエフェクトと超威力の爆発を起こす謎生物とか、気持ちよさのあまりに狂戦士バーサーカーになれるお薬とかが出回ってもらうのは非常に困るのだ。ちなみにこれ全部一度遭遇したことがある。死ぬかと思った。あんなナンセンスな奴らと二度三度も戦って喜ぶのは、我らがヴァリアーのごくごく一部、精鋭中の精鋭だけだ。精鋭でも何でもない私はあんなのと戦ってたらいつか死ぬ。

それはさておき。

この街にたんまりとある人の手にあり余る技術、正確には技術そのものよりも、それを悪用しようとする輩を、可能な限り、外の世界に漏らさないようにしてもらうこと。そのための援助もしくは人員の派遣。こちらはその見返りにヘルサレムズ・ロットにおけるマフィアを始めとするあらゆる犯罪組織の動向についての情報をもらう。これが私たちの目的だ。

国家ほどの大きさの集団は言わずもがな、それよりも小さくてもある程度の規模の人間の集団は、自らの力の及ぶギリギリの範囲で利益を求め、行動する。そういう意味ではマフィア情勢は国家情勢を圧縮したものと見てもいい。利益――ボンゴレならば、シマの平和を求めるため、それにはいくらかの抑止力と、相手の情報が必要になる。彼らを助ける代わりに、それを少しばかりいただこうという寸法だ。一応あの街にはニューヨーク時代からずっといるボンゴレ傘下のファミリーもあるわけだし。要するに、平和を望むならば戦いに備えよSi vis pacem, para bellum、だ。

なぜこの交渉の担当が私かというと。3年前、ちょうど、あの街がニューヨークだった最後の日に、私はあそこに居たからだ。その私ならば、何があっても帰ってきてくれるだろうという謎の信頼もある。念には念を、と私の上司というか夫というか、なXANXUSもついてきた。これでも不安が残ってしまうのは異界と交わって以来、ボンゴレのシマを不定期に襲う超常犯罪の数々のせいだろう。アレのインパクトは強すぎる。そのインパクトの根源があの街なんだからこうなってしまうのも仕方がない。そして、あの世界の終焉のような凄まじい光景が目に焼き付いているからかも。

私は隣に腰掛ける彼の手をそっと握った。

*

ニューヨークの街は突如として濃い霧に閉ざされ、街のあちこちは隆起陥没し、建物は重力を忘れたかのように霧の中に浮かんでいた。この世界に終末というものがあるとすれば、きっとこのような光景だ。炎が見えないことだけが救いかもしれない。

どこかからは銃声が絶え間なく響く。おそらくは州軍が戦っている。問題はその戦っている相手がなんなのか、ということだけど。戦闘が始まってからもう半日は経っている。あと数時間で弾薬は尽きるだろう。その後何が起きるのか。寒気しかしない。

私は、人々を連れて脱出するべく、ここから一番近い出口目指して歩いていた。

意識を取り戻したとき、私には何が起きたのか全くわからなかった。気がついたときには既に霧が街を覆い尽くしていて、私は何が何だか分からないままに、最初の崩落を生き延びた周囲の人を鼓舞し、町の外に脱出するべく移動していた。

避難する人たちの中には子供もいれば老人も居た。ずっと歩きづめというわけにはいかず、かといって10人あまりを載せられる車は見当たらなかったし、道も車が通るには心もとない部分がよく見られた。よって移動は徒歩だった。

休憩を何度か挟み、食事が喉を通らないという人を励まし、襲い来るよくわからない生物を撃ち殺し、一つ目の脱出路、地道まであと少しというところにたどり着いて、私は思わず立ち止まった。

引き返さなくては。

道路はただ霧に包まれているだけのように思える。でもダメ。この道の先へと一歩足を踏み出そうとしたとき、背中に氷水を垂らされたような怖気を覚えた。その直感に従い、人々を下げ、自分も下る。

その時、それなりに大きいはずのこの道を塞ぐほどの幅の黒い柱が上から降りてきて、私のつま先10センチほど先に突き立てられた。鼻先に風を感じた。……下がっていなければ全員下敷きになって死んでいた。

なんとか命拾いしたが、これでこの道は使えなくなった。回り込もうにもこの道沿いの建物があったはずの場所は石を投げてもなんの音も返ってこない虚無。おそらく霧の吹き出す場所につながっているのだろう。そんな場所の上なんて空が飛べても通りたくない。

「この道はダメです。他のルートを探しましょう」

皆が一様に不安げな顔つきになった。私も正直不安。この状況は未知の状況なのだから。街はどこもかしこも崩落している。既知のどの生命体とも符合しない、まさしく怪物と呼ぶべき生物。そして、その怪物と行動をともにする人間のような『なにか』。これは人類が今までに遭遇したことのない災害と言っても言いすぎじゃない。そもそもここを脱出しても、霧が晴れる場所があるのか。不安ばかりが湧き上がる。こんな状況で不安になるなという方が無茶。

でも一つの集団を率いる者は、その状況がどんな困難に満ちたものでも、自信満々で「私はこれっぽっちも間違っていません」という顔をしていなくてはいけない。それが、信頼関係もへったくれもない急造の集団で、尚且つ個々の顔を容易に覚えられる規模ならば、なおさら。下手に不安な顔を見せればそれが伝播して最悪全滅する。『彼』がいつでもどこでもあの泰然とした態度をしているのには立派な理由がある。『彼』の場合、元来の気質も大いにあるのだろうけれど、つくづく彼はトップに向いた人だ。私とは大違い。

今は状況がわからないなりにも、やるべきことがある。向いていようが向いていなかろうが、今一番冷静に近い上に戦えるのは私だけ。彼らとともに脱出しなければいけない。今は不安と恐怖は顔に出せない。

周りを見渡す。目の前の柱と同じような直方体の何かが、空と地面から降りてきて合わさる。あれが生え揃えば世界に何が起きるのか。私はつばを飲み込んだ。

ここに留まっていても仕方がない。私は彼らとともに、来た道を引き返した。

*

その後、レゴブロックのように組み替えられて完全に異界となるはずだったというニューヨークは、人間側の術師らの奮闘により辛うじて人界に片足を引っ掛け、再構築された。私たち十数人は全員が辛うじて生き延び、各々の身内と連絡を取り合い、あるものは再会を分かち合い、あるものはいつまでも待ち人を待ち続けていた。還ってこない待ち人を待つものの中には、十代にも達していない少年が居た。

街の外では、事態を察知したアメリカ海軍第二艦隊および周辺の空軍基地の総力を結集した攻撃が霧の街に向けて行われたが、謎のタコ足をもつ巨大な生物によってその攻撃のことごとくを迎撃、彼らは為す術もなく退散した。世界最強とまで呼ばれたアメリカですらこのざま。他なんて話にもならないんだろうな。

そして世界は混乱に飲み込まれたまま、3年あまりが経ち、今に至る。

この間、世界はあの街から漏れ出した技術で大わらわ。この前は無許可で用いられた異界の医療技術が凄まじい惨劇を引き起こした。たかが縫合に用いた術式で、村一つが肉塊に変わるなんてそんなこと想像できる?私には無理。

元ニューヨーク、現ヘルサレムズ・ロット内部は、というと。合衆国に突如として現れた異界に対応すべく、EUは警察組織を編成、異界技術を用いた軍用兵器、ポリスーツを用いて、異界のみならずアメリカや中国ともバランスを取ろうとひっくり返った亀の子のようにジタバタしているが、たぶん無理。私から言わせれば、あの終末でさえも、奇想天外の一片にしか過ぎない。いくら最先端を行く装備を使っていても、所詮は人間。どこまで行ってもに人間は自分の常識良識でしか動けない。それらがあんまり通用しないこの街でどこまでやれるのか。

ちなみにHLにおける警察組織はなにもEUだけじゃない。連邦捜査局HFBIもある。あそこも機動装甲部隊があったな。後はヘルサレムズ・ロット警察署HLPD。ここも機動装甲部隊がある。彼ら何度も壊滅しているけれど、充足率が気になってくる。

……やる気満々で有名なHFBIの署長には一応話を通しておいたけれど、油断して眉間に穴が空くことのないようにしないと。

まあとにかくHLの人間はいまや1/3にも満たない上に、その半数は何かしらの訳ありだけど、それでも人間は生きている。人は驚くほどしぶとい。彼らはしたたかに生きている。

私はそんな街に3年ぶりに出向く。まるで母校に行くかのようなそんな緊張と懐かしさ。

「怖じ気付いたか」
「うーん、何に巻き込まれてもなんとかなる、と思う。多分」
「随分と図太くなったな」
「そうならざるを得なかったというか」

くしゃりと頭がかき回される。電子音、それに続いて女性の声がシートベルトを付けるように呼びかける。着陸が近い。着陸すれば、話し合いの会場となるホテルに移動、数時間休憩し、交渉。失敗はしたくない。私はシートベルトに手をかけた。

60分前の私は、確かにそう意気込んでいた。
長女×BBB

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