ぐりぐりってノートに殴り書いたみたいに
「名前っちい」
「なに」
「……すっげーうざい、そういうとこ嫌い」
「はあ!?」
突然の黄瀬の言葉に、少なからず驚いた。そりゃあそうか、自分で言うのもあれだけど黄瀬はあたしにべた惚れで、いつもは名前っちいとか言ってぎゅうぎゅう抱きついてきて恥ずかしいしうるさいし重いしで毎回若干不愉快なんだから。うざいとか、ましてや嫌いなんて言葉を口にすることは絶対ないのに、それなのに、黄瀬が嫌いって言ったから。
「き、黄瀬?どしたの?」
「うざい。喋んな」
「…黄瀬?本当大丈夫?」
肩を揺すると心底嫌そうな顔をしてあたしの手を払った。あ、これはさすがに傷付く、かも。言われ慣れてないから余計。うわあ、なんか視界がぼやけてきた。くそ、くそ、全部こいつのせいだ。
「っ……」
「なに、泣いてんの」
くっそ、白切るんじゃねえよ。お前わかってんだろ、うぜえ、むかつく、死ね。いやごめんうそ、死ななくていいけど。だって、ていうか、本当…なんなの。
「意味わかんない、なんで、も、ほんと、う」
我慢してたのにぼろぼろってこぼれてしまった。絶対やだって思ってたのに、弱みなんて見せるかって思ってたのに、ちくしょう、この野郎。
「……ごめん、俺、だっていつも名前っちが俺のこと見てくれてない気ぃして、だから意地悪してやろうって、気ぃ引こうって思って、でも意地悪してる俺は自分が嫌んなるくらい惨めだった…俺こんなことでしか名前っちの気ぃ引けないんだ〜、って…本当にごめん」
「いいよもう。あたしこそ泣いたりしてごめん…困惑させちゃったよね」
少なくともあたしの鼻の頭は確実に赤くなっている。くやしいけど、泣いたのは本当に黒歴史だけど、でもそれだけ黄瀬のことが好きってことで、いいんじゃないか。よくはないけども。
「そんなことないっス!泣き顔なんて超レアだし!」
「…やっぱ許さない」
「ええ!?なんで!?男に二言はないでしょー!」
「男じゃないもん!」
ぐりぐりってノートに殴り書いたみたいにぐちゃぐちゃで不恰好な愛でもいいなら幾らでも差し上げますよ
天羽さんへ捧ぐ