甘い悪魔

《只今より一般の入場を許可します。生徒のみなさんは節度のある行動をするように。》

6月のとある日の午前9:30。3年間通っていてきっと3回くらいしか声を聞いたことがないだろう教頭からの放送が入った。日の光が明るい。今日は文化祭2日目です。

「なんだか昨日よりだいぶ活気があって別の行事のように思えます。」
「3年目だというのに黒子はまだ慣れないのか。」
「いえ、慣れないというか、いつやっても新鮮さがあるだけというか…」
「それを慣れないというんだけどね。」

優しい瞳で笑いかけるこの人は僕の憧れであり、片思いの相手でもある。今日は一緒に回ってくれるそうです。ただ、シフトが入っているらしく途中は別行動になるらしいのですが。

「そう言えば、赤司くんのクラスは何やっているんですか?」
「ん?俺のクラスのことは別にいいだろ?それより今年の二年は凝っているらしい。見に行ってみようか。」
「え、は、はい。」

こんな調子で何をやっているのかも絶対に教えてくれません。人間の本能って知ってますか?秘密にされるほど知りたくなるんです。何をやっているのか、そもそもなぜ隠す必要があるのか。赤司くんのシフトが入るのは11:00らしいです。その時に拝見に行こうと思います。赤司くんの仕事姿も拝めるので一石二鳥です。

「射的に輪投げ、ヨーヨー救いにゴムボール救い。」
「こっちは食べ物屋さんです。綿あめ、焼きそば、フライドポテト、チュロス、アイスクリーム、クレープ。時期的には早い気もしますがかき氷もありますね。」
「凝っているというか、金をかけすぎている気がするが…まあいい。黒子はどれがいい?」

どれがいいかと聞かれても、これだけたくさんあれば選ぶのに困りますね。やはり順序的には遊んでから食べるのが妥当ですよね。食べ歩きという手も今日は許される日なので。

「では、射的やりませんか?」
「…うん、よし。やろうか。」

店番であろう女の子に声をかけお金を払う赤司くん。声の掛け方もイケメンです。隣を歩いているのが誇らしく思えますね。さすが赤司くんです。

「ねぇねぇ、今の人カッコ良くない?!」
「めっちゃイケメンだった〜!先輩かなー?彼女とかいないのかな?」
「うーん…あ、でもほら!一人っぽいしいないんだよ!」

………僕いますけど。一人じゃないですよ。赤司くんの圧倒的な威圧感の所為で余計に僕の存在感が薄くなってます。普段は全然気にしないですしバスケでは特異なので大切な武器ですが、こういう時はちょっと不愉快です。

「あ、でもまって。友達と来てるっぽいよ?」
「ほんとだ!でも友達とくるってことは余計彼女いないってことじゃない?」

片思いしている僕としては結構グサグサ突き刺さるんですが。万が一付き合えたとしても恋人には見えないと、そういうことですよね?まあわかっていることなんですけどね。

「どうした黒子?」
「あ、いいえ!何でもないです。それより赤司くんはどこを狙ってるんです?」
「んー、とりあえずはあれでいいかな。」

あれでいいと言いながら指差したのはいかにも落ちなさそうなぬいぐるみ。っていうか、え。なんですかその選択。ぬいぐるみって、ちょっ、可愛すぎます赤司くん。男子中学生が射的でぬいぐるみ狙うってどこの萌えキャラですか。しかも一発で落としますよね絶対。流石です赤司くん鼻血でそう……




飛んで飛ばして時刻は10:45。もちろん10発10中だった赤司くんはギャラリーからの盛大な拍手を受け、とったもの全てを僕にくれました。僕は既にぬいぐるみを受け取った赤司くんを拝めただけで幸せだったのですが…あ、もちろん鼻血は我慢しました。当たり前です。とにかく今は景品を片手にチュロスを食べながら巡回中です。

「赤司くんはチュロス要らないんですか?」
「…じゃあ僕も食べようかな。」

ぱくっ

「うん、意外と美味しいね。」
「え、う、あ、へ、はわわわ…」

えええええええ!ぱくって!いやいや落ち着け黒子。冷静に考えるんだ。赤司くんが僕の食べかけのチュロスに直接ぱくって……あああああああ!何ですかその可愛い行動!っていうかあれですよね、あの定番の間接キスですよね!ちょっ、え、僕が赤司くんと間接キ……えー!

「黒子?何一人で百面相しているんだ?置いて行くぞ?」
「ああぁあああ、すみません!今行きます!というかシフトはいいんですか?」
「だから行くと行っているんじゃないか。」

え?赤司くんのクラスに連れて行ってくれるってことですか?なにがどーして気が変わったんでしょう。あんなに嫌がっていたのに。



「それじゃあお願いします。」
「赤司が戻ってくるまででいいんだな?」
「はい。では、僕はもういかなければいけないので。黒子、30分待たせて悪いけど、虹村先輩と回っていてくれ。」

え…ちょっと待ってください。なんで虹村先輩と?いやいやおかしいですって。行こうって虹村先輩のところにって意味ですか!?若干期待してしまったじゃないですか!虹村先輩もおかしいですって!なんで“俺がお守りしてやるかしゃーねぇなー”みたいな感じになってるんですか!僕の期待を返してください。

「黒子はどこ回りたいんだ?」
「赤司くんのクラスに行きたいです。」

即答です。僕は諦めませんよ。意外と粘り強くしつこいタチなので。

「あー、赤司に止められてんだけどなぁ。まあお前が行きたいっつーならしょうがねぇか。」

あれ。意外とあっさりOK出ました。え、赤司くんが虹村先輩に預けた意味がまるでわからないですよこの状況。止められてるのにいいんですか。それ完璧に約束破りですよね。まあいいですけど。

「まあ、あれだ。驚くなよ。」
「え、何がですか?」
「行ってみればわかる。」

驚くって何がですか?何に驚くんですか?というか虹村先輩は既に拝見済みですか。羨ましいです。

「ほら、ここだ。」
「…………へ?」

男女逆転メイド&執事喫茶………!!!?赤司くんのクラスが喫茶店?!今年の喫茶店のクラスが決まったとは聞いてましたが、まさか赤司くんのクラスだったとは……。しかも男女逆転って。あれですよね、赤司くんがメイドさんですよね。なんですかこの美味しい状況。

「と、ちょっと待て。なんもなしに教えるのは赤司が可哀想だからな。」
「はい?」
「男女カップルだと半額らしいし。」
「え、まさか……」
「よし、演劇部行こう。黒子、お前も女装だ。んで俺の彼女になれ。」

は?いや、えええええええ!おかしいですから!どんな条件ですか!それじゃあ僕まで見世物じゃないですか!嫌ですそんなのしんでも嫌です!しかも最後サラッと危険なこと言いませんでした?彼女になれって!もっと他の言い方あるはずですよ!僕だから良かったものの、他の方だったら勘違いしますよ。

「あの、虹村先輩……やっぱ無理です。脚がスースーして嫌です。」
「じゃあ行かねーんだな?」
「うっ………わ、分かりました。」

サッとカーテンを引いて一歩前に出る。スカートってこんなに足が気持ち悪い履物なんですね。よく女の人はこんなもの履けるなと尊敬します。それにしても、男だってばれませんかね?まあ多少メイクとかされましたけど……演劇部の方に勝手に。

「っ……ちょっ、お前女装似合うな……本物の女より可愛いかもしれねぇぞ。」
「いや、それは流石にないです。それに女性の方に失礼ですから。」

正直自分では気持ち悪いくらい似合わないと思うんですけどね。お世辞でもそこまで言われると満更でもなくなるといいますか……。ああああ、流されてはダメです。

「よし、そんじゃ行くか。」
「はい。………?」

何ですかその手は。え、本当に恋人のふりするんですか?手を繋げってことですよね?いやいやいやいや。

「まあ、その、なんだ……一応フリだけでも…」
「はぁ、まあそうですね。疑われないようにするにはそれが一番ですね。」

女装はあれですけど、僕のわがまま聞いてくれたので。僕の女装姿の偽彼女でよければ手を繋ぐとします。それにしても本当に不愉快ですね、スカートって。ひらひらひらひら。気になってしょうがないです。

「いらっしゃいませー。カップル様ですね。半額になりますのでどうぞごゆっくり!」
「カップル様一組入りましたー!」
「普通に、騙せましたね…」
「そりゃお前。女にしかみえねえし。」

それはそれでショックなんですが。男として生まれてきた身としてはもう少し疑われたいものです。

「いらっしゃいま…っぶふぅ。ごほっ。な、んで虹村先輩がここに…」
「いや、こいつが来たいっていうからな。」
「こいつ…?」

視線を下げたメイド姿の赤司くんとバッチリ目が合いました。女装してなければ嬉しい状況なんですけどね。数秒考えるようにして固まったあと赤司くんが口を開きました。

「ま、まさか……こいつって…黒子、か…?」
「はい。僕です。」
「んなっ!」
「いやー、赤司との約束破っちまうしフェアじゃねぇなと思って。カップルなら半額だろ?だから黒子にも女装させた。」

ことの経緯をサラッと説明する虹村先輩とビックリして僕を見ている赤司くん。そんなさらっと説明できるほど僕の心情は簡単じゃないですけどね。複雑すぎて困るくらいですけどね。

「じゃあなんだ…虹村先輩と黒子はカップルとしてここに……」
「あぁそうだ。黒子可愛いだろ?」
「確かに可愛いが……ってそうじゃない。問題はカップルだということです。」

とりあえずこの二人のことは置いといて注文でもしますか。そうですね……バニラシェイクはさすがにないようなのでイチゴオレで我慢しましょう。それからアップルパイもいいですね。ここは接客も充実してますが品物が出てくるのも早いようです。もうイチゴオレが来ました。

「黒子の彼氏に相応しいのは俺ですよ、虹村先輩。」
「いや、俺だな。」
「ぶふぉっ!…げほっごほっ………けほっ…」

いやちょっと待ってください。いつからそんな話になってるんですか。ていうか僕って彼女ポジションなんですか?いや、それ以前になんで僕なんですか?

「おー!なんだ?あの水色の髪の女の子を巡ってバトってんのか?」
「すげー!誰だあの美少女!イケメン二人も落としたのか?」

おかしいですから。まず僕は男です。僕を巡ってバトってる……んですかね…?どーみてもそうですよね。同性愛って引かれるかと思ってましたが、身近に二人もいたなんて、なんか少し安心します。ってそんなのんきなこと言ってる場合ではなくてですね!てことはあれですか。二人とも僕を好きだったってことなんですか?

「おいおい、美少女困ってんぞー!イケメンが揃いも揃って一人の女取り合うっつーのは様になるけどよ。」
「あの子羨まし〜!」

お願いですから野次飛ばさないでください。ほんと目立つの苦手なんです。ああああああ、もう本当どういう展開なんですかコレは!!!


「はっ!………なんだ、夢、ですか。ビックリさせないでください……」

こんな美味しい展開、実際にあったら怖いくらいです。まあ、夢で良かったと思う反面、夢ならもう少し冷めないで欲しかったです。さて、今日は文化祭2日目です。気合いれて頑張りましょう。

「 こ れ は た だ の 夢 な ん か じ ゃ な い 。 」

甘い悪魔
(夢は正夢となるのだ)(悪魔の囁きで)
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