ラストラバー・ラスト(ひそやかに錆びていく僕の最後の恋人)

「赤司くん、さようなら」
「まて、待ってくれ......行かないでくれ、僕を置いて行くな…」
「すまねぇな赤司。テツはこれから俺のものだ。」
「違う……違う!テツヤは、テツヤは……!!!」

pipipipi pipipipi

「っ!!!」

目覚ましの音でハッと目を覚ます。まだまだ春先で心地の良い朝なのに、僕は汗だくだ。ベッドからおき鏡の前に立つとよくわかる。真っ青な顔で冷や汗をぐっしょりかいていた。

「なぜあんな夢……」

変な夢をみると不安になる。らしくないとは自分でも思うが、不吉な予感がしてならないのだ。何も起こらなければいいが、と思いつつ風呂場へ向かう。流石に汗だくのまま着替えるのは気持ちが悪い。シャワーでも浴びようと戸を開けた。

「はぁ………っ!!!なっ、なぜお前たちがここに…!」
「なぜって、ここは僕らの家じゃないですか。」
「大丈夫か赤司?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。」

全然大丈夫ではないが、とりあえず落ち着こうと深呼吸をする。ここが僕ら3人の家だと?僕は自分の思考をたどって行く。まず、いつも通り自分のベットから起き、父の顔を見たのちこの風呂場まできた。風呂場への道も、僕と父の2人で住んでいるこの無駄に大きい家ならではの廊下だった。一体どういうことなのか。

《バターン》

「っ!!??」
「青峰くんっ!!!しっかりして下さい!」

物凄い音と共に、テツヤの悲鳴のように甲高くなった声が聞こえる。そのそばには急に倒れた青峰が横たわっていた。

「あ、お…峰……?」
「青峰くん、青峰くんっ!僕も今そちらに行きますから、一人になんてさせませんから…!」

どこに所持していたのか、果物ナイフを取り出したテツヤが自分の首にそれを突きたてようとする。既に少し傷がついているのか、タイルに赤い模様が描かれていく。ポタポタと流れ落ちる、赤い水滴を見て僕はハッとした。

「やめろっ!テツヤ、やめるんだ!お前が死んだら僕はどうすればいいんだ…?!」
「青峰くんを一人にはできません。」
「だが、お前が逝く必要はないだろう?」
「そんなに赤司くんは一人になりたくないんですか。分かりました、赤司くんも一緒に連れて行って差し上げます。」
「い、や…待て!何も死ななくたっていいんじゃないのか……?」
「そうですか…赤司くんは死にたくないんですね。それではしょうがないです。僕だけ青峰くんの元へいきます。」
「やめっ、テツヤー!」

《ドサッ》

目の前で二人の遺体が転がる風呂場で、某然と立ち尽くすしかできなかった。結局僕だけでは何もできないのだ。そうだ、お前だけでは何もできないとでも言っているかのように、テツヤの首からは真っ赤な液が流れ出す。まるで留まるところを知らないかのように、辺りに赤い海をつくっていく。

**********

piiiiiiiiiiiiiiiiiii…………

「あ、赤司くんっ……ダメですよ、力尽きないでください……」

無機質な機会音が鳴り響く。真っ白に包まれた空間で規則的に上下して生きていることを証明していた機会は、ピーという音と共にブレることなく真っ直ぐになった。

「テツ………」
「すみません青峰くん。ちょっと赤司くんと二人にしてもらってもいいですか?」
「あぁ…」

僕を心配してくれているのは分かります。なんで普通の顔してるんだよって言いたいのもわかります。でも、なぜか涙も出ないんです。まるで顔が無表情のまま固まってしまったかのようで。どうやって泣くのか、どうやって叫ぶのかも分からないんです。

「赤司くん……ずっと好きでした……」

《ガチャ》

「先生がきたようです。すみません、赤司くん…」

シャーというカーテンを引く音と同時に、お医者様が顔をのぞかせる。その後ろには青峰くんもいて耐えられないといったような顔をしていた。

「13時37分、赤司征十郎様御臨終です。」

外は日の光を浴びた緑の葉が輝き、雲一つない空が優しく包み込んでいる。外に出ればジワリとにじむ汗も、病棟内では感じられない。7月のある日、僕の愛する大好きな人が死にました。4月からずっと植物状態でした。病院に運ばれたのは、部活が終わってすぐでした。まだ15歳という短い命。なぜ君が燃え尽きなければならないのでしょうか。神様は理不尽です。

ラストラバー・ラスト
(もしも願いが叶うなら)(赤司くんを/僕を)(一人にしないでと)(祈るでしょう)

***あとがき***

この作品を読んでくださってありがとうございます。
ちょっとわかりにくいかと思うのでネタバレと言いますか、解説をします。
まず、最初の赤司くん視点のシーンですが、あれは全て夢です。
植物状態の赤司くんが見ていた非常にリアルな夢です。
一方黒子視点のシーンの方は現実です。
赤司くんが植物状態になった原因は「脳卒中」です。
最後、赤司くんが亡くなったのは、夢で黒子が亡くなってしまって、自分もそっちに行くことを決めたからということです。

長々とすみません!伝わったでしょうか?
ちょっとミステリアス風に書いて見たかった作品でした。
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提出:トライアングラー
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