今という色

「きりーつ、礼」
「「「さよーなら」」」

いつものように一日の日課をこなし、学級委員の合図と共に席を立つ。向かう先は………

「大分時間がかかったようだな、テツヤ。」
「お待たせしてすみません、赤司くん。」

大好きな赤司くんの所です。いつもなら僕が先にきて待っているはずの待ち合わせ場所。今日は赤司くんの方が一足先に着いていたようで、お待たせしてしまいました。珍しいこともあるんですね、そう言って赤司くんを見れば、たまにはいいじゃないかと言って歩き始めました。

「そう言えば、赤司くんは受験校決めましたか?」
「まあ、一応な。テツヤは?」
「僕も決めました。」

まだ中学2年生になったばかりの夏。うちの学校ではもう既に受験の話がちらほら出始めています。どこの高校がいいとか、文化祭に行ってきたらこんなだったとか、偏差値がどうだとか。正直僕はまだ、受験生になるという実感が湧きません。つい去年受験から解放されたばかりで、それからまた受験の話なんて、はっきり言って無理です。でも一応、希望校はそろそろ決めておくべきなのはわかっているので。

「テツヤは都内の高校に行くんだろう?」
「はい。都内以外はたぶん親が許してくれないので。」
「そうか。テツヤは大事にされているからな。」
「どうなんでしょう。そういう赤司くんは都内ですか?」
「いや、僕は京都の方に行こうと思ってるよ。」
「京都、ですか。それはまた……遠いですね。」

ビックリしました。というか、一緒の高校にいけないというショックが大きすぎて、本来なら言葉も出ないところを僕はよく頑張ったと思います。

「でも、何で京都なんですか…?」
「まあ、少し理由があってな。」
「理由、ですか。いつか、教えてくださいね。」
「もちろんだ。……今日はどうする?」
「そうですね、マジバに行きたいです。」

マジバはバスケ部でよくする寄り道のNO.1店です。まあ、家に帰れば夕飯があるので僕はシェイクしか頼みませんが。せっかくの夕飯も、お腹いっぱいでは申し訳ないですしね。

「いらっしゃいませー!」
「今日は案外空いているな。」
「そうですね。」
「ご注文はいかがなさいますか?」
「僕はバニラシェイクでお願いします。」
「それじゃあ僕も一緒でいい。バニラシェイク2つください。」
「かしこまりました。お持ち帰りですか?」
「いいえ。」

ハキハキと応える赤司くんはやっぱりかっこいいです。でも、あと一年でお別れになるなんて、さみしいですよ。なんか、思い出したら泣きそうになってきました。

「ありがとうございましたー」
「さて、飲みながら帰ろうか。」
「そうですね。」

外に出るとむわっとした生暖かい空気が漂っていて、じんわりと汗をかいた。夕方とは思えないほど暑い。

「赤司くん。」
「どうした?」
「僕は赤司くんのいない日々なんて考えられません。」
「そうか。」

隣にはいつも赤司くんがいて、それが当たり前すぎた日常で。赤司くんのいない非日常的な未来は想像もつきません。でももしも、赤司くんが当たり前のように隣にいる今が非日常だとしたら、僕は日常をどう過ごしたらいいのでしょうか。僕の日常はあまりにも色あせた状態になってしまうでしょう。

「まあ、そんな先のことはまだ考えなくてもいいだろ?そうだな、まだ僕たちには時間がある。今という日常で沢山の色を重ねよう。それでいいだろう?」
「………はい!」

今という色で、僕の心を暖かく包んでください。
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提出:瞼の裏に星雲を
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