君以外あり得ない

12月といえば、クリスマスに大晦日。大抵の人の主な行事と言えばそんなものだろう。
曇天の空を見上げて息を吐く。今日もまた吐く息が白い。

「ねえママー!今年もサンタさんくるかなー?」
「そうねぇ。いい子にしていたらきっとくるわよ。」
「じゃあ私いい子にする!」

無邪気な子が母親とそんな話をしながら通り過ぎる。僕にそんな経験があっただろうか。いや、なかったと思う。サンタさんが実在しないことは小学校入学以前から分かっていた。

「お父さん。なんで僕の家にはサンタが来ないの?」
「12月にお前は生まれたから、プレゼントの用意が大変なんだ。」

若干5歳の僕に、僕の父はそう言った。サンタの正体は自分だと言っているようなものだ。流石にショックだった記憶がある。そして、12月生まれの自分が嫌だった記憶もある。でも、この歳になればもう然程気にしなくなる。
ふと頬に冷たい感覚が走る。顔をあげれば、先ほどまで曇っていただけの空からふわりふわりと真っ白な雪。後方から聞こえる足音に“あぁ、やっと来た”、言いようのない安心感に包まれる。

「お待たせしました。行きましょう、赤司くん。」
「あぁ、行こうか。」

沢山話すわけでも、ゲームをしたりするわけでもないが、こうしてテツヤと二人でいる時間が一番落ち着く。素の自分でいていいんだとそう言ってくれたから。

「雪、積もるでしょうか。」
「どうだろうな。」
「積もるといいですね。僕、雪は好きなんです。」
「何か理由があるのか?」
「赤司くんみたいだからです。」

僕みたい?僕にはそう言って微笑むテツヤの方が雪に似ているように思える。テツヤは人をよく観ている。ああ言ったのにもちゃんと訳があるに違いない。でも、その訳を何故だか今は聞きたくなかった。今の自分がなくなってしまうような気がしたから。

「赤司くん、今日は誕生日兼クリスマスプレゼントなので、僕が奢りますからね。」
「クリスマスプレゼントなら、テツヤも貰うべきだろ?」
「いえ、僕は両親から貰うので大丈夫ですよ。赤司くんは自分が楽しむ事だけ考えてください。」

ほらね。全てお見通しなんだ。テツヤに隠し事は通用しないんだよ。僕の家にサンタはこなくて、プレゼントもなくて、でも僕はクリスマスプレゼントというものが欲しかった。そんなこと、今まで一度も、誰にも話したことはなかった。それでも君は気づいてくれるんだな。

「じゃあ、今日だけは……テツヤに奢ってもらおうかな。」
「はい!」

きっと本当の僕に気がつけるのは、先にも後にもテツヤしかいない。君以外あり得ないんだ。
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