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――覚悟とはなにか。



この国の民に問えば、彼らは誇らしげにこう答えることであろう。



――我らが王を見よ、と。









 + + +



王は、きょうも戦場にいた。



舞い上がる土埃。交差する刃。男たちの怒号、断末魔。


馬上の王の横顔に、熱い血風が吹きつける。


何度も浴びたそれを拭うこともせず、彼は高らかに剣をかかげた。進む。進みゆく。誰よりも先に。兵たちは天を貫かんほどのときを上げ、どっとその背を追いかけてゆく。



――王とは、民の盾。



その信念を魂に刻みこみ、彼は常に玉体を戦の前線に置いていた。



いつか王宮の美しい寝台の上で、愛する者たちに見守られながら、静かに命を閉じることもできようというのに。


まさに今、血と泥にまみれた大地へ今すぐ倒れ伏すことになろうとも、彼はかけらも後悔をしないのであろう。



王としての、苛烈なまでの信念。


彼を仰ぐ者たちは、それを悲壮、無謀などとは決して呼ばない。


『覚悟』。身をうち震わせながら、ただその二文字を思った。






「……報告、報告ーッ!」



突如ひとりの伝令が駆けつけ、王の馬へ抱きつくようにしてその歩みを阻んだ。


王は手綱をさばきつつ、はっと顔を上げた。――東。この音は。



「東の山頂に伏兵!我がほうの斥候に発見されるやいなや山をなだれ降り、こちらへ向かっております……!」



――奇襲。


顔色も変えずに東を睨む王の周りを、親衛隊がぐるりと取り囲む。


そのうちのひとりが、陛下、と鋭く声をかけた。



「……お退きください」



王を切っ先として敵勢を押し上げ続けた軍隊は、やや縦に間延びしていた。


ゆえにこのままでは、東からの増援に横腹をつかれる。それに備え、軍の陣形を立て直すだけの時間は――ない。



「陛下だけでも、お退きください」



高揚と焦燥に血走った眼で、親衛隊は王を見る。


しかし、王は、頷かなかった。



「陛下ッ」


「――ほ、報告ー!」



新たな伝令が駆けつけた。


王の口辺に、ふと笑みが浮かんだ。



「ひっ、東の山のふもとにて、我が軍が敵を迎え撃ちました……!食い止めておりますッ、寡兵ながら、見事に敵を食い止めております!ひそかに伏せていたは――カザミ隊とのよしッ!」






――東。


馬上から敵兵を斬り伏せ、若き隊長・カザミは吠えた。



「陛下をお護りせよ!私につづけ、つづけぇ――ッ!」



カザミ隊は雄叫びをあげ、修羅のごとく血刀を振りかざした。







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