▼ もうぼちぼちしたらクリスマス
1.近所のドラッグストア
「最近シャンプーいろんな種類があって迷うよねー」
「そうだねえ」
今使っているシャンプーに飽きたので新規開拓すべくヘアケアコーナーを物色していると、女子大生くらいの二人組がやってきた。
私と同じ目的らしい。
「なんかおすすめある?」
「んー、あんまりいろいろ使わないからわかんないなあ」
茶髪で気の強そうな女の子が、おっとりした黒髪ロングヘアの女の子におすすめを尋ねた。
黒髪ロングヘアは困ったように笑う。
「えー、じゃあ、あんた今なに使ってんの?いっつも髪サラサラじゃんか」
「私が使ってるのはこれだけど……」
黒髪ロングヘアが指差したのは、そこそこ安い、だがそこそこ良さげな、そこそこのシャンプー。CMもそこそこおしゃれだ。
「でも、これけっこう髪きしむし、そんなサラサラにもならないよ。だからたまにヘアパックしてるんだ」
と言いながらも、黒髪ロングヘアは買い物かごにそのシャンプーの詰め替え用を入れた。
「えっ、じゃあなんでそれ使ってんの?変えたくならないの?私、ちょっと気に入らないとすぐシャンプー変えちゃう」
茶髪は、今まで使って悪くなかったシャンプーをいくつか指差した。
「これとかけっこう良かったよ?こっちにしたら?」
しかし、黒髪ロングヘアは控えめに微笑んで、首を振った。
「いいの、これで」
茶髪は首を傾げる。
「なんで?きしむんでしょ?」
すると、黒髪ロングヘアは、少しためらってから、うつむき加減で言った。
「彼が、いいにおいって、言ったから……」
「……」
「……」
「……」
茶髪は、この店で一番高いシャンプーをかごに投げ入れ、鼻息荒くレジに向かった。
私は、乾いた笑いとともに、一番安いシャンプーを手に取った。
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