▼ てをつなごう
父親の再婚によって、年の離れた妹ができた。
こどもが好きな俺は、嬉しくてしかたなかったが、周囲は『ロリコン』などと好きなことを言って囃し立てた。
当の妹も、警戒するような目でこちらを見つめてくる。
いいじゃないか、俺がロリコンなのだとしたら、きみが成長すれば安全だ。シスコンの方が危ないぞ。――そんな思いを込めて送った視線は、逸らされる。
とは言え、妹の幼稚園のお迎えは、帰宅部男子高校生であるところの俺が担当だ。彼女もそこに異存はないらしい。
嫌われているわけではないようだ。
帰り道、妹はいつも、俺の一歩後ろを歩く。
危ないから手を繋いで帰ろう、と初めに言ったのだが、首を振られた。
代わりに彼女はその自由な両手を、ママチャリの荷台に乗ってこちらを追い抜く友人たちに向けて、ひらひらと振っている。
その距離に、最近は慣れてきた。
「きょうは、あっちのみち、とおってかえる」
ある日、妹が言った。
指差した先は、いつもと比べればかなり遠回りになる道。
こちらの道を通って帰る家族はあまり見たことがないし、人通りもほとんどない、静かな道だ。
「おー、じゃあそうするか」
たまには違う道を通りたいのだろう。
いつものペースで、誰とも行き交わない道を行く。
一歩後ろを歩く妹は、もともと俺とはあまり喋らないが、今日は輪をかけて……というか全く口を開かない。
ちらり、と背後を振り返ると、目が合った。
「ん?」
「……」
妹が立ち止まったから、俺も首を傾げて足を止める。
すると。
「…………」
ふっくらとした、ちいさなてのひらが、差し出された。
「……ん?」
「て、つなぐ」
「えっ!?」
声を上げると、妹は泣きそうな顔をした。
俺はさらに慌てることになる。
「え、いや、だって、手つなぐの嫌だったんだろ?」
「きょうは、こっちのみち」
「え?」
「だれもみてないときは、いいの」
「おおっっ!!??」
すねたような顔で、それでいて手をひっこめようとしない妹に、不覚にもときめいてしまった。
ロリコン疑惑が現実のものに?
何にせよ、これまでの妹の行動の理由がわかって嬉しくなった俺は、てのひらの汗を制服でごしごしと拭いてから、ちいさなその手を握った。
ちょっと、歩きにくい。
でも構わない。
「照れてたのかー、かわいーなー!」
「…………」
ジトリとした目で俺を見上げる妹。
調子に乗りすぎたようだ。
でも、かわいいし、嬉しいから、いいか。
end
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