小話 | ナノ


▼ 僕は君が好きだ

君が好きだ。


だけど君は彼のことが好きだ。


そして君は、その大好きな彼と、恋人同士だった。


だから僕は、君に好きだとは言わなかった。


ただ、君の恋が壊れてしまうことを、失われてしまうことを、消えてしまうことを、祈りながら、待っていた。

しあわせそうに笑う、君のそばで。



いつからか、君の表情が曇りがちになって、ある日、君の恋は、壊れてしまった。失われてしまった。


彼の、心変わり。

待ち望んだ、結末。


それでも君の心から、その恋は消えなくて、君はずっと、泣いていた。


君が彼のことを好きで、君と彼は恋人同士だったから、僕は何も言わなかった。


けれど、君と彼が恋人同士じゃなくなっても、僕は君に好きだと言えなかった。



ちがう。

言えない、のではない。


満足していた。


他の誰かを想ってしあわせそうな君を見ているのが嫌で、

他の誰かを想ってしあわせそうにしている君が嫌いで、


だから今、他の誰かに不幸にされて、泣いている君を見ていると、たまらなくうれしくて。


僕と同じだと思うとうれしくて。


僕をこんな気持ちにさせる君が、僕と同じ気持ちで泣いているのだと思うと、しあわせで。



『好きな人がしあわせならば、僕もしあわせだ。となりにいるのが僕じゃなくたって』

そんなのは、真っ赤な嘘だ。


となりにいるのが僕じゃないなら、しあわせでなんて、いてほしいものか。




だから、永遠に君が泣いていればいいと思う。



手に入らなくてもいいから、こっちを見てくれなくてもいいから。


誰のものにもならず、僕以外の誰にも見つめられずに、ずっとずっと、君は泣いていればいい。


ひとりで泣いていればいい。



そんな君が、僕は好きだ。

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