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【第一夜】
俺はいつもの講義室で、いつものようにノートを広げ、講義を聞いている。
いつもと違うのは、講義をしているのが何故か、学生であるあいつだということ。
それと、講義を受けているのが俺一人だということ。
「今日は恋愛について講義をしに来ました。啓太くんは、ずっと好きだった人と昔みたいに話ができなくなってしまったら、どうしますか?」
あいつはスーツ姿でにこりと笑って、俺を指名する。
「はい美里センセー。それ俺、わからないんです。教えてくれますか?」
「先生にもわかんないんです。だから啓太くんに教えてほしかったのに、ほんとにわかんないんですか?」
美里は、寂しそうに言った。
「わかってたら苦労してません、先生。だけどたぶん、今なら…」
俺は席を立って、教壇に近づく。
そして美里の手をとって、
「実力行使、とか」
大きな黒板に美里の背中を押し付けて、顔を近づける。
「目、閉じてよ、美里」
「……はい」
頬を染めて従順に目を閉じる美里に満足感を覚えながら、俺も目を少しずつ閉じる。
美里のくちびるとの距離が、限りなくゼロに近づいていくのを確認しながら。
―――そこで、
目が覚めてしまった。
***
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